2016 Fiscal Year Annual Research Report
三陸地方における家族の生業戦略への東日本大震災の影響に関する研究
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16H06624
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
池田 菜穂 東北大学, 災害科学国際研究所, シニア研究員 (10450264)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 三陸地方 / 家族 / 生業 / 地域社会 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、三陸地方の地域社会における家族単位での生業活動と生活状況について、東日本大震災前後の変化とその要因を明らかにしようとしている。平成28年度においては、翌年度に実施する現地調査(本調査と呼ぶ)の対象地域を決定するために、以下の活動を実施した。 1、東日本大震災による被災前における三陸地方の生業活動に関する文献調査をおこなった。具体的には、国立国会図書館および東北大学附属図書館等での資料収集とその分析を進めた。 2、調査対象地域の候補地として選定した2つの地域、すなわち、宮城県石巻市内に位置する雄勝半島と、同県気仙沼市内に位置する唐桑半島とを訪れて、現地視察をおこない、集落の立地などを観察したほか、当該地域とその代表的な近隣都市とのあいだの交通事情を把握した。 3、現地視察をおこなった2地域のうち、気仙沼市の唐桑半島において、本調査に先行する予察的な調査(先行調査と呼ぶ)を実施した。具体的には、唐桑半島の鮪立地区のうち、鮪立湾沿いの第1~3行政区を対象と定めたうえで、まず、(1)地域の人口や、住民の世帯ごとの生業構成・家族構成などの変化について、先行研究および近年の国勢調査の結果から理解できる事項を整理し、漁業に従事する人口の減少傾向などを確認した。次に、(2)地域社会において現在リーダー的な役割を担っている住民や、東日本大震災当時にその役割を担っていた住民・元住民とそれぞれ面会し、本研究の計画を説明し、この地域での現地調査の実施に対する賛同を得た。さらに、(3)東日本大震災発生の前年である2010年頃の住民世帯を対象に、生業活動と震災後の居住地に関する情報収集をおこなった。 以上1~3の活動の成果を踏まえ、翌年度に鮪立地区で本調査を実施することを決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に実施した文献調査の成果を踏まえ、先行調査の対象地域を当初予定から変更したため、補助事業の完了時期を延長する必要が生じた。しかし、候補地の再検討を経て、新たに選定した先行調査の対象地域では、本研究の遂行に必要な現地調査の実施について、地域住民のご理解とご協力を頂くことに成功している。また、その対象地域における過去の生業活動や生活状況に関する優れた文献(1980年代の現地調査の報告等)が存在し、それらも活用しながら効果的に調査を進めることにも成功している。以上のように、スケジュールとして当初予定よりやや遅れたものの、研究内容としては当初の想定以上に充実した成果をあげることが期待できる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、地域住民の生業活動や生活状況について、東日本大震災前後の変化を明らかにすることを主な目的としているため、計画作成当初においては、地域住民への聞き取り調査においても震災前後の期間(震災発生の数十年間前から現在まで)の変化に焦点を絞っておこなうことを想定していた。しかし、文献調査や先行調査を進めるうちに、その目的を達成するためには、より長期的な視点をもつことが重要であることを明確に認識するに至った。 三陸地方の地域社会は、東日本大震災だけに留まらず、人口減少や高齢化、あるいは漁業を取り巻く環境の劇的な変化なども含め、様々な社会環境の変化による影響を受けてきた。また、過去の津波災害への住民の対応の内容も、同地方における生業と生活の継続に大きく関与してきたはずである。震災以前の長い期間における、そうした地域社会の動向を調査・分析することによって初めて、震災による地域社会への影響についての理解が可能になる。したがって、その調査に、より多くの労力を割く価値があると考えたのである。 上記の点を踏まえ、翌年度に実施する本調査においては、家族ごとの生業活動に関する聞き取り調査の際に、聞き取り対象者の両親や祖父母の世代にまで遡って、当時のお話を伺うことにした。そのような方法で、既存の文献や統計データも活用しながら、調査対象地域における最近のおおむね100年間程度の期間(大正期から現在まで)の生業活動の変容を明らかにしたいと考えている。
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Research Products
(2 results)