2016 Fiscal Year Annual Research Report
次世代中性子検出のための高速応答有機シンチレータ結晶の開発
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16H06633
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山路 晃広 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20779722)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 有機結晶 / シンチレータ / 中性子検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子検出器用シンチレータとして、有機結晶の研究開発を行った。将来の中性子利用を鑑みたとき、数ナノ秒以下の速い蛍光寿命が求められている。有機結晶では、数ナノ秒以下の蛍光寿また、中性子の反応断面積が大きい水素を多く含むため、中性子の検出効率が高く、高速中性子でも検出可能かつ潮解性がないという特徴を有する。一方、既存の有機シンチレータは低融点で温度上昇による劣化が起こりうる。そこで既存の有機シンチレータより高融点で、高速応答・高発光量な有機結晶の開発を行った。 本年度は、まず一般的な有機結晶シンチレータであるスチルベン及び有望な候補材料であるp-terpenylを用いて、有機結晶の育成法を検討した。まず、中性子検出用途の大型化を見据えて、垂直ブリッジマン法による大口径化を試みた。窒素置換した密閉チャンバー内にて、石英アンプル内に原料を充填し、抵抗加熱により育成を行った。しかし、無機材料と比較して熱伝導率が小さくサブグレインに起因するクラックが内部に生じた。そこで、新しいるつぼを設計し、クラックのない結晶の育成に成功した。現状では半インチサイズの結晶の育成に成功している。また、ベンゼン環を有する候補材料の探索として安息香酸等の結晶化にも成功している。 育成結晶の光学特性評価として、中性子源(251Cf)と光電子増倍管を用いた蛍光寿命測定を行い、スチルベン及びp-terpenylは共に数nsオーダーの高速寿命であった。また、分光器を用いた、X線、アルファ線励起による発光波長スペクトル測定、発光量の測定を行った。p-terpenylはアルファ線励起において既存の中性子Liガラスシンチレータの1.8倍の発光量であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね当初の予定通りに進捗している。結晶育成に関しては、結晶内部にクラックが生じるという問題が発生したが新しく設計したるつぼによりクラックフリーで育成できるようになった。これを用いて候補材料であるp-terphenylや安息香酸等の結晶育成に成功している。本年度予定していた候補材を全て育成できていないが、これは結晶の大型化を前倒しした為である。中性子照射施設にて照射実験をおこなう機会がえられたので、大型の結晶が必要であった。 本年度育成したp-terphenylの融点は210℃程度かつα線励起の発光量はトランス-スチルベンの2倍程度であった。蛍光寿命も目標としている性能の6nsに近く非常に有望な材料である。当初計画していた材料の探索方針に沿ってπ結合を含むものを中心に探索を進めてきたが、良好な結果が得られており今後も同じ方向性で進めていく所存である。 評価手法としては、透過率、発光、励起波長、および蛍光寿命といったフォトルミネッセンス評価は問題なく従来の手法が用いることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
結晶育成としては、引き続きπ結合を含むもの、例えばベンゼン環を有するClHmOnで表現される物質もしくはその一部置換分子、ClHmNnなどを含むビス(トリアジニルアミノ)スチルベンジスルホン酸誘導体を中心に探索を行う。また、これらを母材として発光賦活剤(POPOP、1,4-Bis(5-phenyl-2-oxazolyl)benzeneなど)の添加も試みる。結晶育成としては今年度に開発した有機結晶育成に適した新しいるつぼにより行う。また、中性子照射実験や検出器開発用途に向けて有保材料について1インチ径以上の大型化を試みる。 特性評価については、これまで行ってきた透過率、発光、励起波長、および蛍光寿命といったフォトルミネッセンス評価、X線、アルファ線および中性子励起による発光波長スペクトル測定、発光量、および蛍光寿命の評価を引き続き行う。また、恒温槽を用いた発光量測定システムで100℃までの高温での発光量の温度依存性を行う。 シンチレータは中性子や陽電子等に対してある程度放射線体耐性が必要となるので、外部の放射光施設を利用して放射線耐性測定等の実験を実施予定である。また、これまでにいくせいしたサンプルを中心に波形弁別を行い、弁別のしやすさと組成の関連性について調査する。 以上の評価手法と高速な結晶育成手法を組み合わせて、互いの結果をフィードバックすることで効率的に研究を進めていく。当初の目標通り、低融点を克服し(目標値:200℃以上)、なおかつ高速応答(蛍光寿命6ナノ秒以下)を有し、トランス-スチルベンを凌駕する発光量を有する新規材料の開発を行う。
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Research Products
(3 results)