2016 Fiscal Year Annual Research Report
がん治療の経済的負担が患者の治療選択・日常生活に与える影響―経済的毒性に着目して
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16H06645
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
青山 真帆 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30781786)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | がん / 経済的負担 / 経済的毒性 / 医療保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目の研究実績として、研究計画のとおり、自記式質問紙調査を行った。全国851名の対象遺族に調査票が郵送され、510名(60%)から有効回答を得た。調査結果から、研究目的1、2について、以下が明らかとなった。 目的1.がん治療による患者および家族の経済的負担の頻度・程度 患者ががん治療のために支払った医療費や療養中の家計のゆとり、就業状況について、各項目の分布を明らかになった。がんの診断から死亡までに患者・家族がしはらった医療費の総額は、100万円未満が46%と最も多く、ついて100~200万円未満(29%)であった。治療中の暮らし向きについて、家計のゆとりがない・家計が苦しいを合わせて16%であった。また、がんの診断時に常勤勤務していたのは17%、非常勤で10%であった。 目的2.がん患者の治療中の経済的負担ががん治療や日常生活に与えた影響 経済的な理由で医師のすすめた治療や本来希望していた治療の変更・中止、その他治療費のために生じた日常生活の変化(食費・服飾費・レジャーを減らす、生活費や学費を切り詰める、資産を売却するなど)について、各項目分布および、治療の変更・中止となった関連要因について明らかにした。経済的理由による治療の中止・変更を経験したのは約15%、治療継続のための生活の切り詰めを経験したのは16%だった。日常生活の変化では、貯金の切り崩しが24%(よくあった・時々あったの合計)と最も多く、次いで旅行等レジャーの減らした(12%)、車・土地・家屋等資産の売却(11%)などであった。これら治療の経済負担が治療自体や日常生活に影響をあたえる関連要因として、有意な差がみとめられたのは、年齢の若さ、治療中の家計のゆとりが少ないこと、無職であること、都市部以外に居住していること、など社会経済的な要因であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は、2016 年度に実施される全国遺族調査J-HOPE2016研究の一部として、(1)本研究内容に該当する項目の調査票の作成、調査票を行うこと、(2)調査票の送付・回収されたデータのうち、本研究に関するデータを取得し、データクリーニングを行うこと、(3)得られたデータのうち、調査票に設けた自由記載欄について、内容分析によって患者のがん治療中に生じた経済的問題についてカテゴリー抽出を行うことを計画していた。データの送付と回収については、対象者851名に調査票が郵送され、510名(有効回答率:60%)から回答を得た。これは、研究計画時に見積もった症例数とほぼ同等である。また、得られたデータをクリーニングし、当初予定していた自由回答欄の内容分析ではなく、先に2年目に予定していた量的データの粗解析を行い、結果の記述統計量を算出した。また、「経済的な理由によって、医師の進める治療を変更・中止したことの有無」、「経済的な理由によって、本来受けたいと思っていた治療を変更・中止したことの有無」、「治療費のために生活費を切り詰めたことの有無」について、関連要因の探索を行った。これによって、研究目的(1)がん治療による患者および家族の経済的負担の内容とそれらの頻度・程度、(2)がん患者の治療中の経済的負担ががん治療選択や日常生活に与えた影響と関連要因、について概要が明らかとなった。また、専門書籍や学術集会参加によって、がん医療、がん医療政策、医療保障制度、医療経済などについて、国内外の情報を広く収集した。これらは、2年目により詳細な解析や考察を行う上での基礎データとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目に計画していた量的解析を1年目で実施したため、2年目では、自由回答の質的解析として、内容分析および主題分析を実施する。また、1年目および2年目の成果・解析結果について、2年目では学術集会や学術誌で広く公表し、研究目的とした(1)がん治療による患者および家族の経済的負担の頻度・程度、(2)がん患者の治療中の経済的負担ががん治療選択や日常生活に与えた影響とその関連要因、の2点を明らかにし、がん患者が治療全期間をとおして経験した、治療に伴う経済的負担感の具体的な内容と程度とそれが治療選択や日常生活に及ぼした影響について明らかにすることによって、医療者による患者や家族の意思決定支援や、医療保障制度および医療経済政策について、具体的な方策を検討する。
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