2016 Fiscal Year Annual Research Report
ドメインを有する繋ぎ止め脂質二重膜の構築と膜タンパク質研究への応用
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16H06667
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
茂木 俊憲 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (00780602)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 平面脂質膜 / 膜タンパク質 / 原子間力顕微鏡 / 蛍光顕微鏡 / 脂質膜ドメイン / 表面修飾 / 自己組織化単分子膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、膜タンパク質を生体膜内と同様の構造・機能を保ったまま、人工平面脂質膜(SLB)へと再構成し、膜タンパク質の構造変化や他分子との反応をその場で解析可能なシステムの確立を目指している。しかし、SLBを用いる場合、膜タンパク質-基板間の接触による構造変化と膜タンパク質配向の無秩序性が大きな障壁になっている。また、生体膜内において膜タンパク質はその構造保持および機能発現の観点から周辺の特定脂質の凝集構造であるドメインと密接に関係している。 このため、まず平成28年度は膜タンパク質の配向を制御可能な、基板に構築した有機分子層上の平面脂質膜である繋ぎ止め人工膜(t-BLM)を構築することを目的に、マイカ基板上にて、膜タンパク質のカルボキシ末端と特異的に結合するNi キレート構造を持つ均一なホスホン酸誘導体自己組織化膜(SAM) の形成を試みた。研究計画に基づき、SAM形成試薬濃度や溶媒、温度を網羅的に検討した結果、従来のSAMよりも分子レベルで平坦な、凹凸が1 nm以下のSAM構築に成功した。XPS計測から、マイカ表面OH基との化学結合形成を確認した。またこのホスホン酸SAM上において、Niキレート部位を有する二層目のSAM形成にも成功し、その凹凸は1 nm以下であることが分かった。 また、膜タンパク質の構造・機能に関して、脂質膜ドメインの寄与を見積もるため、蛍光異方性測定と蛍光寿命測定を合わせ、脂質膜内の蛍光プローブを対象とした分子回転ダイナミクス計測系を確立した。これにより、従来の一分子計測では困難であった、脂質膜疎水部の物理学的パラメータを選択的かつ高感度に得ることができた。今後、ドメインを有する人工脂質膜へモデル膜タンパク質を導入し、本手法を用いて、膜タンパク質とドメイン間の親和性およびその選択的導入について定量的に検討することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、平成28年度に行う主要な部分として、凝集・欠陥構造のない均一な単層SAM 形成条件の最適化およびその形成を計画した。多段階の自己組織化膜(SAM)形成においても、表面ラフネスが1 nm以下であり、欠陥構造が数100平方マイクロメートルの領域にわたって観察されない、平坦かつ均一なSAM修飾基板を得ることに成功した。 また平成29年度に行う計画であったが、このSAM修飾基板に対して、従来の培養・精製・再構成プロセスを経た膜タンパク質を使用し、人工脂質膜の形成を前倒しで試みた。液中原子間力顕微鏡(AFM)観察の結果、高さ4 nm程度の膜タンパク質を観察することができたが、均一な人工膜の形成には至らなかった。これは、膜タンパク質を脂質膜へと再構成する際に必要な界面活性剤が除去しきれていないことによる。AFMによる生体分子の直接観察により、人工膜の形成における問題点が明確になった。 また、本研究のもう一つの目標である、ドメインの膜タンパク質ダイナミクスへの影響を検討するため、脂質膜内蛍光プローブを対象とし、蛍光異方性および蛍光寿命の測定から、分子回転ダイナミクスに基づいた局所的な膜構造解析系を立ち上げた。 一方で、平成28年度の計画であった人工膜ドメインの構築とドメインへの膜タンパク質再構成については、現在のところAFM観察による評価が中心になっているため条件最適化に時間を要している。早急な顕微鏡イメージング系の立ち上げが必要であるが、機種選定等は完了しており平成29年度の前半から稼働できる状態になる。以上より、研究はおおむね順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の前半から顕微鏡観察系を立ち上げ、ドメイン形成およびその境界領域での分子ダイナミクスへの影響を迅速かつ定量的に見積もる。 また、膜タンパク質の再構成プロセスについて、実験操作を見直す。膜タンパク質を界面活性剤で可溶化したのち、超遠心分離等による界面活性剤の除去を行う。また精製プロセスにおいて、ニッケルキレートと膜タンパク質C末端の結合を利用した、界面活性剤を用いない膜タンパク質の精製および人工膜への組み込みを計画している。大腸菌コンストラクションによるモデル膜タンパク質の発現・精製が必要であるが、実験実績のあるグループと打ち合わせが完了しており、随時遂行できる状態にある。 また、膜タンパク質を組み込んだ巨大単層ベシクル(GUV)の作製についても検討を重ねており、GUV作製時から膜タンパク質を組み込み、これを基板上に展開することを考えている。GUV作製系については立ち上げを行う必要があるが、こちらも実績のあるグループと共同で行うことで迅速に遂行する。 また、平成28年度に達成した新たな膜構造の計測方法について、論文投稿および学会発表を平成29年度の前半から行う。
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Research Products
(3 results)