2016 Fiscal Year Annual Research Report
スポーツの実戦における心理的状態の変動が感覚運動情報処理に及ぼす影響
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16H06687
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井尻 哲也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10784431)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ウェアラブルセンサ / 心電図 / 加速度 / 緊張 / スポーツ / 自律神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究の主たる目的は,実戦環境におけるアスリートの心理状態の変動を個人と,チームスポーツの集団において定量評価することであった. 1)実戦および練習状況での基礎データ収集 平成28年度9月から,バスケットボール中学生2チームの選手,コーチ(成人男性)の計10名ずつを対象に,定例の練習と公式戦(リーグ戦)実施中における心電図と体幹部の加速度データを計測した.計測にはウェアラブル生体電極を内側に搭載したインナーシャツ(C3fit,GoldWin社製)を使用した.胸部につけたトランスミッターから.競技場の隅に設置したスマートフォンにデータを転送して記録した.練習は各チーム5日(5回)の計測を行い,公式戦は各チーム最低3試合を計測した.同時に,練習と試合状況をビデオカメラによって撮影した. 2)心理的要因による心拍数の変動を評価するためのモデルを練習時のデータから構築する. 1)において計測した加速度データから被験者の運動強度を算出し,その強度から運動由来の心拍数変動量を予測するためのモデルを被験者毎に構築した.しかし,トランスミッターとスマートフォンの接続が計測中に途切れることが多くあり,その際のデータが欠損した期間を考量した上で,モデルを構築する新たな方法を考案した(日本野球科学研究会第4回大会にて最優秀発表賞を受賞).現在その手法の精度を検証している.本手法の開発により,アスリートの実戦環境における心理的変動を非侵襲無拘束に抽出することが可能になる可能性がある.また,チームメイトまたは,選手・コーチ間の同期・非同期性を分析することで,集団としての心理状態の振る舞いを評価できる可能性がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画で述べた通り,中学生バスケットボールチームの協力を得て,実戦・練習状況における心電図と加速度データを十分に計測することができた.また,その練習時のデータをもとに,心理的要因による心拍数の変動量を評価するためのモデルも部分できに構築することができた. しかし,本モデルはデータ転送の瞬断によりデータが欠損することを想定していたないため,2~3時間の連続する計測時間において,データの欠損がないことが前提となっていた.実用を想定すると,被計測者が自由に施設内を移動するため,データの送信機と受信機の接続を常に保つことは困難であり,データの欠損が生じないことの方が少ないことが予想される.そうなると多くのデータが使えないことになるため,データが欠損した期間を補正する手法を新たに考案する必要が生じた.欠損がない場合よりも心拍数の推定精度は低くなるが,その精度検証を進めている.その上で,当初目的としていた,実戦における運動パフォーマンスと心理的要因による心拍数変動量との関係性を分析する.
また,当初,運動開始前の安静時の心拍数変動から従来手法(周波数解析)を用いて自律神経系の活動バランスを推定することを予定していたが,選手を試合前に安静状態にするという介入を行うことができなかったため,この項目を進めることは断念した.
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Strategy for Future Research Activity |
29年度の研究においては,個人において適応したモデルを集団としての心理状態の振る舞いを評価する方法へと拡張することを主たる目的とする.運動の影響を除して,心理的要因による心拍数変動量を個人毎に抽出することに成功すれば,試合展開に応じて変動する心拍数の個人間での同期性の大小等を評価できる.具体的には,複数の信号の位相同期度の指標となるPhase Synchronization Index (PSI)等を用いて,点差や残り時間等のゲーム状況に応じた,選手同士または選手-コーチ間の心拍数同期度の時系列変動を定量化する.
また,アスリートの心理状態を定量評価できるようになれば,その次の段階として,その心理状態を最適な状態へ導くことが必要となる.そのため,本年度は,被験者の胸部への心拍数のに近い頻度での振動刺激により,心拍数を提示した振動刺激周波数に引き込めるか否かを検討する.その際に,1)振動刺激の強度,2)振動刺激周波数,3)振動刺激周波数のゆらぎ成分の強さ,の3要素が被験者の心拍数に及ぼす影響を検討する.
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