2016 Fiscal Year Annual Research Report
平安時代の政治システムの構造とその実態に関する研究
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16H06698
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒須 友里江 東京大学, 史料編纂所, 助教 (20781438)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 平安時代 / 政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、平安時代に存在した複数の政治の方法がどのような形で併存したのかということを検討した。対象としたのは、日本古代を通じて行われてきた弁官(中央・地方の行政を取りまとめる役所)から太政官(中央政府)への上申の手続きである。この手続きは様々な場所や形で行われたが、その中の①外記政②南所申文③陣申文の三つについて、10世紀半ばから12世紀半ばまでの実例の調査から以下のことを明らかにした。 ①は比較的古い形態を残す手続きで、従来から指摘されているとおり当該期には扱われる内容も現実と離れたものとなっており儀式化されていた。ただし11世紀半ばまでは日常的と言える程度には省略されず行われていたことも事実である。その要因としては①があるべき政治の形に最も近かったことが挙げられ、貴族の政治意識の拠り所としての役割を担っていたことが分かった。 ②は比較的新しい形態の手続きで、③とともに当該期の現実的な手続きとして機能していた。しかし儀式化していた①と連続していたことにより、①の回数減少とともに減少を余儀なくされた。その一方で②は地方官の成績判定に必須の手続きであり、②を行えなかったことにより上位の手続きである③を代替として用いた例も11世紀以降散見された。現実的に機能していた手続きであるにもかかわらず儀式的な手続きと分離できなかったという点で、②も伝統的な方法に縛られた手続きであることが明確になった。 ③も②と同様新しい形態の手続きであるが、②より上位の手続きとして機能し、単独で開催できる点が②と異なっていた。それだけでなく、①②は年始の政務のとり初めである政始の前には開催できなかったが、③はそれ以前に行った例も見られ、伝統的な方法から自由であったことが分かった。ただし、保安3年(1122)には本来行うはずのなかった関白が③を行っており、これを儀式化の指標とすることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は半年間の研究であったため論文執筆には至らなかったが、その準備段階として、当初扱うことを予定していた事項について調査・検討を行うことができた。 調査に関しては、弁官(中央・地方の行政をとりまとめる役所)から太政官(中央政府)への上申手続きに関して、10世紀半ばから12世紀半ばまでの実例を調査した。その結果を用いた検討により、①外記政②南所申文③陣申文の三つの方法がどのように併存していたのかということに関して、以下のことが明らかにできた。 ①は、従来から指摘されているとおり当該期には現実的でない伝統的な内容を扱う儀式化した手続きになっていた。しかし実質的役割を失っても11世紀半ばまでは日常的に行われており、貴族にとってのあるべき政治の方法に最も近い手続きとして意識の面での役割は失われていなかったことが分かった。②は比較的新しい形態の手続きで、当該期に実質的に機能していた手続きであるが、①と連続していたためにともに回数減少を余儀なくされた。新しく実質的機能も持ちながら儀式的な①と分離できなかったという点において、②もまた伝統的な方法に縛られた手続きであったことが明らかになった。③は①②と異なり独立して開催でき、最も新しい方法であったため12世紀に入っても比較的頻繁に見られる。①②は年始の政務のとり初めである政始の前には行えなかったのに対し、③はそれ以前に行った例もあり、①②とは異なる秩序に属する手続きであったことが明らかになった。ただし、保安三年(1122)には本来行うはずのなかった関白が③を行っており、これを③が実質を失ったことの指標とすることができ、これをもって弁官から太政官への上申という手続きが衰退したと判断できることも分かった。 以上の成果から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成28年度の成果を論文化するとともに、個々の事業・政務について設置されるプロジェクトチームである行事所を対象とし(「行事所」と称されていなくても、上卿のもとに弁官らが組織されるものを広く対象とする)、具体的な運営のあり方やそこに含まれる個人の権限について検討する。研究の計画としては以下のものを予定している。 第一に史料の収集を行う。貴族の日記や儀式書が中心となる。摂関期から院政期について悉皆調査を行い、上卿(運営・処理の責任者)が設けられた事業や政務について具体的な内容が追えるものを抽出していく。多くの史料の調査が必要であるため、データベースの活用などで効率化を図る。 第二に抽出した史料を整理し、考察の準備のために各事業・政務ごとに史料をまとめる。行事所の運営には構成員のほか摂政・関白が密接に関与することが知られており、彼らの動きを明確化するよう注意する。考察の時間を十分に確保するため、以上の作業は迅速に行うよう努める。 第三に行事所(上卿が設置された事業や政務も含む)について、各構成員の権限を明確化し、その集合体である行事所の組織としての特徴を考察する。特に上卿については一上(摂政・関白を除いた太政官のトップ)、大臣、大・中納言、参議というランクにより担当できる内容がある程度限定されていたことが知られており、個別の事業・政務においてそれらがどのように現れてくるのか具体的な様相を考察する。また、一人しか置かれない摂政・関白が同時進行している複数の事業・政務についてどの程度関与し把握していたのかという点も考察する。 最後に、以上の内容から発展させ、平安時代に強まり中世につながっていく「個人」の権限について考察する。さらに、Ⅲで考察した摂政・関白の行事所への関与が、摂政・関白の権力が失われる院政期にどのような様相となるのか、という点も考察する。
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