2016 Fiscal Year Annual Research Report
大学生のうつ病に対するファーストエイドの心理教育プログラムの開発
Project/Area Number |
16H06708
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
河合 輝久 東京大学, 学生相談ネットワーク本部, 特任助教 (60780509)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 大学生 / うつ病認知 / ファーストエイド / 情緒的巻き込まれの恐れ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は大学生のうつ病に対するファーストエイドの心理教育プログラムの理論的基盤となる知見を得るために,大学生のうつ病に対するファーストエイドの実態調査とそのファーストエイドの関連要因の検討を行った。 1.実態調査について 大学生のうつ病認知の実態把握とファーストエイドに対する意識を明らかにすることを目的とし,大学(院)生を対象にインターネット上で質問紙調査を実施した。その結果,大学生のうつ病認知は調査協力者は3割に満たなかった。特に,女性に比べ男性の方が,過去に身近に抑うつ者がいなかった大学生に比べ身近にそのような者がいた大学生の方が,過去に抑うつ歴があり専門家に援助要請した経験がある大学生に比べそれぞれ経験がない大学生の方が,院生に比べて学部1,2年生の方が,うつ病を認知できていなかった。また,ファーストエイド意図については,調査協力者の8割以上が「判断せず・批判せずに話を聴く」ことを意図していたが,「適切な専門家のもとに行くよう勧める」者は調査協力者の約6割弱程度であり,「死にたい気持ちがあるか尋ねる」者は調査協力者の1割程度であった。 2.関連要因の検討について 身近な友人の抑うつ症状への情緒的巻き込まれの恐れ尺度を作成し,うつ病認知できる群とできない群における本尺度の因子構造を確認的因子分析によって検証し,信頼性分析や併存的妥当性を検証した結果,一定程度の信頼性と妥当性があることが示された。また,身近な友人の抑うつ症状への情緒的巻き込まれの恐れ尺度のうち,特に「接触抵抗」因子が深刻度評価,援助自信,専門家への援助要請の必要性に負の影響を及ぼしていた。この結果から,大学生は,抑うつ症状を呈し始めた身近な友人に巻き込まれることを恐れると深刻さを低く見積もったり,援助する自信が低下したり,専門家の援助を受けるよう勧めにくくなったりすることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
抑うつ症状を呈し始めた身近な友人に対するファーストエイドの実行・回避に伴う結果予期および専門家に援助を求めるよう勧めることに伴う結果予期に関する自由記述を分類するために,テキストマイニングの利用を考えていたが,得られた記述量が少なかった。そのため,当該分析ツールよりもKJ法によって分析した方が妥当であると考え,この分析に時間を要しており,当初予定していた上記の2つの損益の検討が分析途中であるため。また,これに伴い,専門家に援助を求めるよう勧めることに伴う結果予期が専門家に援助を求めるよう勧める意図に及ぼす影響の検討は完遂していないため。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,「大学生のうつ病に対するファーストエイドの心理教育プログラムの開発」を目的として,本年度は下記の通り研究を実施する。 1.プログラムの理論的基盤となる知見の蓄積:抑うつ症状を呈し始めた身近な友人に対するファーストエイドの実行・回避に伴う結果予期および専門家に援助を求めるよう勧めることに伴う結果予期に関する自由記述については,研究責任者による分類はおおむね完遂している。そのため,臨床心理学に精通する者の協力を経て分類の信頼性を検証し,その上で,専門家に援助を求めるよう勧めることに伴う結果予期が専門家に援助を求めるよう勧める意図に及ぼす影響を検討する。 2.プログラムの開発と効果検証:平成28年度の知見および1を理論的基盤とし,大学生のうつ病に対するファーストエイドの心理教育プログラムを考案する。プログラムの効果検証の指標として,うつ病認知の可否,ファーストエイドの実行意図,作成した「身近な友人の抑うつ症状に対する巻き込まれ恐れ尺度」などを用いる予定である。効果の測定に際して,プログラムを受講する実施群とプログラムを受講しない統制群を設け,プログラムの事前事後,可能であればフォローアップの効果を検証する。尚,プログラムはe-ラーニングによる受講を検討しているが,実施上問題がある場合,電子化したファイルを閲覧できるリンクや冊子などを提供して受講してもらうようにする。
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