2016 Fiscal Year Annual Research Report
量子駆動系の非線形輸送現象における相関効果の理論研究
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16H06717
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石塚 大晃 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00786014)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 物性理論 / 光応答 / 半導体物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、特に異常光起電効果に注目して、外場による周期的駆動によって発現する特異な非線形応答の理論的理解を目的としている。強誘電体などの空間反転対称性の破れた系では、一般に断熱過程によるBerry位相が有限に残る。この効果を反映して、光の照射による直流の非線形応答が生じ、直流電流が発生する(異常光起電効果)。この異常光電流には、これまでにもいくつかの異なる機構があることが報告されている。この光電流は、キャリヤの準古典的運動として理解される従来型の光電流と異なり、波動関数の変形に伴う効果として生じる特異な電流である。こうした発現機構の違いから、異常光電流は従来の光電流と異なる振る舞いを示すと期待されるが、その基本的性質の多くはいまだに十分な理解がなされていない。本課題は、この異常光電流の基本的性質の理解を目的としている。 本研究課題では、異常光電流の基本的な性質に関して信頼性の高い結果を得るために、主に数値計算による厳密な計算手法を用いる。本年度は、この準備として、計算に用いる理論形式の定式化と計算コードの開発を行った。さらに、作成したコードを用いた計算を行い、クリーンな系において異常光起電力の振る舞いを解析し、従来の光起電力と大きく異なる振る舞いを見出すとともに、これらの成果について論文にまとめ発表した。 一方で、Berry位相に由来する特異な光起電力の起源として、Weyl半金属などで見られる可能性がある波数空間の電磁誘導現象についても解析を行った。波数空間の電磁誘導現象は、最近我々が提案した効果で、光などの時間依存の外場によって波数空間にBerry位相が生まれる現象である。本年度は、この現象のより詳細な解析を行い、この効果が電磁気学における電磁誘導現象と現象論的に酷似した振る舞いとして理解できることを見出した。また、これらの成果を論文にまとめ、そのプレプリントを公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画に沿って従来の非平衡グリーン関数法をフロケ理論に基づいて周期駆動系に拡張し、非平衡グリーン関数の一般論を作成した。さらに、この定式化を用いて一次元鎖の計算を行うコードを作成した。この過程において、想定より有限サイズ効果が大きいことが判明した。その為、固有値分解を用いて計算時間を飛躍的に削減するアルゴリズムを実装し、1000サイト程度までの計算が行えるようにした。以上のように、コードの開発に関しては概ね計画通りに進み、期待通りの結果を得られた。 本年度は、さらにこのコードを用いた1次元鎖の計算を行った。具体的には、空間反転対称性の破れた一次元電子模型の代表例であるライス・メレ模型を考えた。この模型を対象に、光を系の一部のみに照射した場合の局所励起による異常光電流の生成と、その光位置依存性を数値計算による解析を用いて解析した。その結果、従来の光電流で期待される振る舞いとは異なり、異常光起電効果では生成される光電流が光の照射場所にほとんど依存しないことを確認した。この異常光電流に特有の振る舞いは、実験的に異常光起電力と従来型の光起電力を区別する有力な方法となる可能性があり、当初の計画以上の成果である。 こうした特異な性質に加え、光電流の入射光の周波数に対する依存性や光強度に対する依存性、励起する原子数に対する依存性などの光電流の振る舞いについて数値的に調べた。また、十分に学術的価値のある成果が得られたことから、これらの結果を論文にまとめるとともに、日本物理学会においてこの成果を報告した。 ワイル半金属における新奇な光電流の研究では、バンドのベリー位相の計算から、波数空間の電磁誘導によって誘起されるベリー位相が電磁気学における電磁誘導による磁場と酷似した分布を持つことを見出した。これは、波数空間の電磁誘導が従来のそれと極めて酷似した性質を示すことを示唆する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、昨年度に続き非平衡グリーン関数法を用いた数値計算による光電流の研究を行う。本年度では、特に不純物効果に着目し、異常光電流の抑制など、不純物の効果に由来する現象を理論的に解析する。具体的には、前年度に作成したコードを用いて、異常起電効果における不純物の影響についての解析を行う。従来型の光電流と異なり、異常光起電効果は波動関数の変形による効果であることから、局在や不純物散乱などに対する応答は非自明な問題である。本年度はこの不純物効果を解析する為、昨年度作成したコードを拡張し不純物の効果を入れられるようにする。不純物効果の解析には、局在長を超えるサイズでの計算が必要であり、数値的にはより大きな系を用いた解析が必要になる。本年度は昨年度開発したコードを用いて1000サイト程度の大きな系における信頼のおける数値計算を行うことで解析を進める予定である。具体的には、このコードを用いて異常光電流に対する不純物効果、特に弱局在の効果について解析し、弱局在による異常光電流への影響を調べる。これらの結果は、昨年度の成果と併せて異常光起電力による光電流の振る舞いを理解する上で重要な結果をもたらすと期待される。 さらに、異常光電流の実時間発展を調べる為、波動関数の実時間発展を計算する為のコードを作成する。多体系の計算を効率的に行う為、ここでは適宜ヒルベルト空間を少数の励起キャリヤを含む状態と基底状態とから成る部分空間に射影する。このコードを用いて、異常光電流のサンプル内部での伝搬の様子を詳細に解析する。さらに、不純物が含まれる場合を考え、不純物による散乱や弱局在の影響について数値計算的に解析を行う予定である。 最後に、本年度は課題の最終年度にあたる為、得られた成果を論文としてまとめ出版する。さらに、学会、国際会議などで得られた成果について発信していく。
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