2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H06718
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
池田 達彦 東京大学, 物性研究所, 助教 (60780583)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 統計力学 / 量子情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Entanglement Prethermalization の統計力学的性質を調和振動子モデルを用いて明らかにした。 Entanglement Prethermalizationは、コヒーレントに分割された孤立量子系が示す非自明な定常状態への緩和である。この定常状態において、各部分系は熱平衡化したように見えるが、量子エンタングルメントのために部分系間の相関は熱平衡とは異なる。1次元ボース気体において行われた先行研究では相関が熱平衡のそれと異なることが明らかにされたが、この非自明な定常状態の特徴付け、すなわちこれを記述する統計力学アンサンブルは不明であった。 本研究では、より詳細な解析が可能な単純化された調和振動子モデルのコヒーレント分割を考え、時間発展の後に到達する定常状態の性質を調べた。このモデルは解析的に解けるほど単純だが、Entanglement Prethermalizationの本質的な特徴を備えていることを示した。すなわち定常状態において、各部分系は近似的にカノニカルアンサンブルで表すことが出来る反面、部分系間の相関はカノニカルアンサンブルやその単純な拡張では記述出来ないことを示した。続いて、部分系間の相関が非局所的(各部分系にまたがる)保存量を取り入れた一般化ギブスアンサンブルによってうまく特徴付けられることを明らかにした。さらに驚くべきことに、このアンサンブルに取り入れる保存量の個数を増やすと遂には定常状態を厳密に表すことが判明した。熱平衡化を妨げていたエンタングルメントは非局所的保存量に埋め込まれていたと言える。 以上の研究により、孤立量子系の熱平衡化条件という基本的問題の理解が一歩前進し、量子情報的な側面も浮き彫りになったと思う。この研究成果は Physical Review E誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、単純化されたモデルにおいてEntanglement Prethermalizationを記述する統計力学アンサンブルを特定することが出来た。取り入れる保存量の数を増やすとこのアンサンブルが厳密になることは期待以上の成果であった。本研究で対象としたのは調和振動子モデルという特定のモデルではあるが、見出した非局所的保存量の構成法は他の系にも容易に一般化出来るものであり、可積分系におけるEntanglement Prethermalizationについて大きく理解が進んだと考えられる。また、一般化ギブスアンサンブルの存在が明らかになったことで、これまで全く別のものと考えられていた非平衡状態との関連性も見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
Entanglement Prethermalizationについては、これまでの研究で浮かび上がって来た他の非平衡状態との関連を整理・分類し、より系統的な理解を目指す。 それと並行して、当初2年目に計画していた可積分性と量子情報の保護に関する研究に着手する。当初はスピン系のセットアップを想定していたが、それとほぼ等価な粒子系にすれば冷却原子系における実験も視野に入る。このような新たな展開も考慮して研究を進める。
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