2016 Fiscal Year Annual Research Report
内包分子によるカーボンナノチューブの熱伝導性の変調現象に関する研究
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16H06722
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
児玉 高志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (10548522)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / ナノスケール熱伝導 / 熱電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は申請した研究計画に従って,東京大学においてサスペンドデバイスの製作に不可欠な微細加工プロセスの確立と電気計測システムの構築作業に着手した.まずデバイス加工に関しては,電子線描画,フォトリソグラフィ,反応性イオンエッチング,スパッタ成膜,二フッ化キセノンと気相フッ化水素による犠牲層除去プロセスなど,必要な加工装置の技術習得とプロセスの検証を行った.その結果,サスペンド構造となる膜材料と金属細線の間に挿入する電気絶縁膜の成膜プロセスに問題があり,申請書に記載したLPCVD SiNとは別の材料の選定と検証が必要であることがわかった.具体的には,サスペンドマイクロデバイスを製作する上で気相フッ酸ガスや二フッ化キセノンガスによって損傷を受けない電気絶縁膜の選定が重要であり,所属研究機関には事前研究で利用したLPCVD SiNの成膜が可能な共用機器が存在せず,他研究機関の技術代行を利用した場合でも大規模で柔軟な成膜を行うことが困難であったため,本研究では代替可能な絶縁膜の選定作業を行った.その結果,スパッタや蒸着プロセスによるSiN薄膜は気相フッ酸ガスによって損傷を受ける一方で,原子層堆積装置で成膜したアルミナ薄膜は電気絶縁性を有しながら2種類のガスによってエッチングされず,サスペンド構造材料として本研究で利用可能であることがわかり,アルミナを絶縁膜として利用したドープシリコンナノ構造の熱電特性を評価する試験デバイスの製作に成功した.次に電気計測システムに関しては,研究計画通りにペルティエ素子と自作真空チャンバを利用して,常温近辺(280K-360K)の温度範囲で熱電測定を行うことが可能な自作システムの構築が完了した.そして同計測装置を利用して,準備した試験デバイスの熱電特性の性能評価を試みた.本研究成果は2017年度5月に行われる伝熱シンポジウムで発表予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は当初の計画通りにデバイス加工プロセスの確立と電気計測システムの構築が終了し,内包CNTの熱電性能評価を行うための準備が整ったと考えられる.しかし一方で,事前実験で使用した犠牲層を周期的に縦に埋め込んだ基板(Periodic nanogrid substrate, PN基板)の再製作が現所属機関においてまだ完了していないことから,現在の進行状況を”(2)おおむね順調に進展している”と自己評価した.今後は同基板の製作とそれらを開始材料として利用したサスペンドデバイスの製作に可能な限り早く着手すると共に,研究計画に従ってフラーレン以外の内包分子を有したCNT分子の熱電性能評価を開始する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究計画は,初年度に確立した微細加工プロセスと計測システムを利用して,内包カーボンナノチューブ(Carbon nanotube, CNT)の熱電性能評価に着手する予定である.まずサスペンド熱電性能評価デバイスにCNTを導入するために必要な犠牲層を周期的に縦に埋め込んだ基板(Periodic nanogrid substrate, PN基板)の製作に着手する予定である.PN基板の製作手順は,(a) シリコン基板表面にアルミナ薄膜を堆積,(b)PN構造をフォトリソグラフィで描画, (c)描画領域のアルミナ薄膜を除去,(d)レジスト除去後,基板表面に酸化シリコン膜を堆積,(e)表面化学研磨で平坦化してアルミナ薄膜に酸化シリコン膜を埋め込む.この手順でPN基板を準備した後,CNTデバイスの製作に着手する予定である.CNTデバイスは,事前研究と同様に以下の手順で電子線描画によって製作する予定である.(a) PN基板上にCNTをスピンコートしてターゲット分子の相対座標を特定した後,ターゲット分子上に計測に必要な金属細線パターンを電子線描画,(b)Cr/Pt金属膜を蒸着してリフトオフ, (c)実験試料のみをネガ型レジストで保護し,酸素プラズマで余剰試料を除去,(d)デバイス構造を電子線描画した後,露出部分の基板材料を反応性イオンエッチングにより除去,(e)露出した基板シリコンを二フッ化キセノンガスで等方性エッチングすることでサスペンド構造を製作,(f)レジストを酸素プラズマで除去した後,ネガ型レジストとグリッド材料を気相フッ酸で除去.このような手順で準備した計測デバイスを利用して280 K-360 Kの動作温度で熱電性能評価を行い,内包の有無による熱電特性の違いや事前研究で確認済みのフラーレン分子の内包効果との違いについて検証をする予定である.
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