2016 Fiscal Year Annual Research Report
放射線損傷の生じない新しいX線イメージングデバイスの開発
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16H06727
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三津谷 有貴 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (70784825)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | X線 / 放射線検出器 / イメージング / フラットパネル / GEM |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では新しいフラットパネル型の放射線イメージング検出器の開発を目指している。既存のフラットパネル検出器は半導体の放射線損傷が生じること、また、X線以外には対応できないといった問題があった。そこで申請者はこれまでに開発してきた気体放射線検出器を適用し、原理的に放射線損傷が生じず、また多様な放射線に対応できる新しいフラットパネル検出器の提案をする。 申請者らがこれまでに開発してきた検出器は、ガラス基板に微細孔加工を施し、気体中に封入した形のもので、ガラスGEMと呼ばれている。中性子・重粒子など様々な放射線を検出できる。また、気体によって放射線を捕捉するため、原理的に放射線損傷の問題が生じない。しかしながら、気体であるために高いエネルギーのX線の捕捉率が低いのが課題であった。そこで本課題では高エネルギーのX線を電子線に変換する固体コンバーターの開発を行い、高エネルギーX線検出の実証を行うことを目的としている。 本年度は、コンバーターの設計および最適化の計算を行った。コンバーターの材質としては、高いX線変換率を持つタングステンおよび金を採用した。コンバーターでは、X線を高速の電子線に変換した後、電子線が気体中に飛び出してこなければ信号とはならない。そこで、高速電子線が十分に抜けてくるように、微細メッシュ形状のタングステンあるいは金箔をコンバーターとすることを検討した。メッシュ形状のタングステンコンバーターについて、GEANT4によるモンテカルロ・シミュレーションを行った所、100keVに対して0.3%程度の検出効率が得られた。これをキセノンガス5mmの検出効率と比較した所、キセノンガスでは0.5%であったため、コンバーターによってそれに近い検出効率が得られる結果となった。キセノンガスは高価なため、低コストでの高エネルギーX線捕捉ができるコンバーターに期待が持てる結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、平成28年度はコンバーターの設計および数値計算による検証を行うことを目的とした。 100keV程度のX線に対して生じるコンプトン電子のエネルギーと飛程を見積もり、その後、GEANT4(モンテカルロ計算コード)を用いて詳細に物理的相互作用の過程を計算・検証し、コンバーターの形状(厚さ、メッシュピッチ等)を最適化した。そして計算結果より、期待される検出効率の見積もりを行った結果、高価なキセノンガスに近い検出効率がコンバーターによって得られることが分かり、コンバーターによるX線検出について期待がもてる結果となった。以上の結果より、平成28年度の目標を達成することに成功したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度に設計した結果に基づいて実際にコンバーターを導入する。コンバーターとしては、タングステン素材のマイクロメッシュ形状、あるいはミクロン厚の金箔とする。コンバーターは設計結果にもとづいて製作を発注する、あるいは近いパラメータの既存のコンバーターを購入する。 導入したコンバーターを用いて、高エネルギーX線の検出を実証する。初めはコンバーターとガラスGEMの組み合わせによって、100keV程度のX線の検出を実証する。コンバーターの有無によって検出効率の違いを評価し、コンバーターの有効性を評価する。その後、イメージング用の読み出し機構と組み合わせることによって、100keV程度のX線に対してのイメージングを実証する。イメージングの結果から、画像分解能の見積もりなどを行う予定である。 実際の実験ではコンバーターによって期待通りの性能が得られない可能性も存在するため、そのような場合に備えて、平成28年度に設計した幾つかのタイプのコンバーター(タングステンメッシュ、金箔)の検証を並行して行う予定である。これによって効率的に研究を進めていく。 以上の研究によって得られた結果を、H29年度中に研究論文や学会において発表する予定である。
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