2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H06748
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小山 雄広 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (70780526)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 心臓線維化 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はCol1a1プロモーター下にGFPを発現するトランスジェニックマウス(Col1a1-GFPマウス)の心臓初代線維芽細胞を不死化することで、心臓線維芽細胞株を樹立することに成功している。さらに、この細胞株に対し乳酸を刺激することでCol1a1遺伝子発現が増加し線維芽細胞が乳酸により活性化することを確認することができた。乳酸投与により、核内にHIF-1αが誘導されることをウェスタンブロットで確認しており、乳酸が線維芽細胞においてHIF-1αを誘導しCol1a1遺伝子発現が上昇する機序の解明試みた。まず、HIF-1αに対するsiRNAを用いて、乳酸によるCol1a1発現にHIF-1αが関与しているかを検討した。その結果、siRNAによりmRNAレベルでHIF-1αのノックダウンが得られていることは確認されたが、HIF-1αに対するsiRNAの有無によって乳酸によるCol1a1発現の増加は変わらなかった。HIF-1αの核内集積とCol1a1発現への関係につき今後とも検証を加えていく。それ以外にもCol1a1遺伝子発現を上昇に寄与する細胞シグナルとしてTGF-bシグナルやNAD+依存性脱アセチル化酵素であるSirtuinなどを阻害剤を用いて検証した。TGF-b受容体ALK5の阻害剤であるSB-431542を用いて乳酸のCol1a1発現の上昇とSmadのリン酸化を介したTGF-bシグナルが関与しているか検証を行ったが、こちらも阻害剤を使用することで有意な変化は認められなかった。Sirtuin阻害剤を用いた検証でも、乳酸によるCol1a1発現の増加に変わりはなく、Col1a1発現の上昇はsirtuinを介したものではないことが分かった。今後は、乳酸によるCol1a1発現上昇に関与する細胞内シグナルの同定とともに、生体内での線維芽細胞活性化因子の同定を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1Col1a1-GFPマウスの心臓より線維芽細胞培養株を樹立した。この線維芽細胞培養株はTGF-βによる刺激で活性化することを確認している。また乳酸による刺激により、線維芽細胞活性化を確認している。また、乳酸刺激時、線維芽細胞の核内でHIF-1αが蓄積していることを確認することができた。HIF-1αの核内移行およびCol1a1のプロモーター領域への結合を介してCol1a1発現が増加しているのではないかと想定した。HIF-1αのsiRNAを用いた実験では、Col1a1発現は変化せず、HIF-1αの関与は示すことができなかった。TGF-β―smadシグナル、sirtuinを介した細胞内シグナルの関与についてそれぞれ阻害剤を用いて検証したが、阻害剤によるCol1a1遺伝子発現の低下は認められなかった。また乳酸刺激による線維芽細胞活性化がpHの低下を介しているかについても検証を行った。DMEM培地に塩酸を加え乳酸を加えたときと同様にpHを低下させた場合も、Col1a1発現の上昇を認めた。乳酸を介した細胞外pHの低下により線維芽細胞の活性化が促されている可能性が示唆された。HEPESを培養液中に加えることで、乳酸によるpHの低下を緩衝したところ、Col1a1発現は低下した。細胞外のpH低下を感知する受容体として、細胞外pH感知Gタンパク質共役型受容体であるGPR4、G2A、OGR1、TDAG8が存在することが知られている。pHが低下した際のこれらの受容体のmRNA発現レベルを確認した。その結果、一部のpH感知Gタンパク質共役型受容体は乳酸刺激により増加しており、Col1a1遺伝子発現が上昇に対する関与を検討した。pH低下時に遺伝子発現上昇を認めた受容体に対する阻害剤を用いて検証を行った。その結果、いずれの阻害剤も乳酸刺激時にCol1a1発現を有意に低下させることはなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、乳酸によりCol1a1発現が増加する機序について解明を試みる。細胞内シグナルを同定するため、線維化への関与が示唆されているMRTF-Aの関与を検証する。阻害剤であるCCG-1423を用いて、MRTF-Aの核内移行を抑制し、転写活性を阻害したうえで、乳酸によるCol1a1発現に対するMRTF-Aの影響を検討する。また、乳酸投与時にHIF-1αが核内に集積しており、HIF-1αの認識配列である低酸素応答配列下にルシフェラーゼを発現するレポーターアッセイをおこない、乳酸存在下でHIF-1αの転写活性が増加しているかを検討する。siRNAを用いた検証ではHIF-1αのノックダウンにより十分なCol1a1発現の低下は得られなかったが、ノックダウンによってもHIF1αタンパク量としては十分の転写活性を有している可能性もあり、ほかのHIF-1α標的遺伝子発現の低下を確認する。また、HIF-1αの集積により細胞内代謝が変化し酸素消費が低下している可能性がああり、酸素消費速度、細胞外酸性化速度の変化を細胞外代謝フラックスアナライザーを用いて検証する。乳酸が代謝基質として利用されている可能性を検証するため、13Cでラベルした乳酸を用いて、乳酸の分解物がどのように細胞内で蓄積するかを質量分析をお行い検討する。コハク酸の蓄積によりHIF-1αの水酸化酵素であるPHDの酵素活性は低下しHIF-1αが蓄積することが知られており、乳酸投与下で細胞内コハク酸濃度の変化につき検証する。また乳酸によりHIF-1αが核内に蓄積する機序についても明らかにするため、PHD2の水酸化酵素活性について検証する。ツー・ハイブリッド アッセイによるPHD2とHIF-1αのタンパク質相互作用の変化について検証する。またクロマチン免疫沈降アッセイを行い、Col1a1プロモーター領域へのHIF1αの結合を検証する予定である。
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