2016 Fiscal Year Annual Research Report
神経疾患における二次元的眼球運動検査による定量的病態評価の試み
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16H06752
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺田 さとみ 東京大学, 医学部附属病院, 病院診療医 (40779807)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 眼球運動 / 脊髄小脳変性症 / 小脳機能 / 運動調節 / 神経生理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳は運動を円滑に行い姿勢や筋緊張を保つ働きをもち、大脳基底核や脳幹などと共働して運動の調節を行っているが、その随意性運動制御のメカニズムは未解明である。「よく見る」すなわち視覚入力を的確に受け取るためには、網膜の中心に像を捉えることが必要で、そのために様々な眼球運動が生じる。衝動性眼球運動(サッカード)はもっとも速くかつ正確な随意運動であり、小脳障害の評価の場として最適と考えられる。眼球運動における小脳の機能はこれまで主に動物実験による基礎研究で明らかにされてきた。サッカードの制御に主な役割を果たしているのは小脳では室頂核と虫部であると言われている。サルで虫部を不活化すると障害側に運動開始時の加速障害による過大な振幅を対側には運動停止時の減速障害による過小の振幅を生じると報告されているが、開始の潜時変化の報告はこれまで少数あるにすぎない。今回我々は、純粋小脳型の遺伝性脊髄小脳変性症で眼球運動計測を行い、小脳の眼球運動調節のメカニズムについて検討する。これまでの計測では、動物実験の報告と異なり潜時延長を認めており、眼球運動に関与する小脳経路について新しい知見が得られる可能性もある。一方神経変性疾患では、特に小脳症状について適当な定量的評価方法がないのが現状である。そこで純粋小脳型の遺伝性脊髄小脳変性症での眼球運動計測により各種パラメーターを検討し、小脳疾患の定量的評価に資する指標を明らかにしたい。 更に小脳疾患患者の実際のADL低下の主たる原因は運動失調症状であるが、個々の運動は目の動きの密接に関連している。そこで眼球運動と同時に手の運動を計測して両者の関係を検討し、運動障害に関係する指標について眼と手の協働運動の観点からも明らかにしたい。これらの知見は、小脳疾患の診断・病状評価に役立ち、治療やリハビリテーションに寄与すると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は東大病院神経内科に通院あるいは入院中の神経変性疾患患者について、眼球運動計測を行った。対象神経疾患には、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺や皮質基底核変性症などのパーキンソン症候群など、小脳疾患や基底核疾患が含まれる。小脳症状のみを呈する純粋小脳型の遺伝性脊髄小脳変性症(SCA6, SCA31)の患者20名で計測し、年齢を合わせた健常対象者20名の計測結果との比較検討を行った。これまでの報告は主に眼電図による水平方向のサッカードについてであるが、今回ビデオ式アイトラッキングシステムを用いることで垂直方向を含めて8方向での眼球運動を計測対象とし、日常生活における眼球運動により近い形で検討した。 視覚誘導性サッカード課題と、記憶誘導性サッカードの課題を行っているが、遺伝性脊髄小脳変性症の患者では、視覚誘導性サッカード課題に優位に潜時の延長が垂直を含む方向で認められ、臨床症状スコア(SARA)との相関を認めた。また振幅異常(オーバーシュートなど)も垂直を含む方向で多かった。記憶誘導性サッカードでは、斜め方向でだけ潜時の延長を認めた。潜時延長については先行報告での記載が少ないが、小脳症状の指標となる可能性について、他疾患の結果と比較し検討しているところである。また垂直方向で障害が多く認められることについては、水平・垂直方向の眼球運動を生じる経路が異なることが知られているが、小脳が双方の眼球運動調節について異なる関与をしている可能性があるのか、他の神経変性疾患の症例を増やして比較検討しているところである。 データ解析については、計測データの情報量が膨大であり(EyeLink システムのサンプリングレートが500 Hzと高いため)、結果処理の自動化が必須であると考えられ、システムの整備を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 脊髄小脳変性症の眼球運動計測:前年度に引き続き、遺伝性脊髄小脳変性症症例 (SCA6, 31)を蓄積する。前年度計測の結果を受け、眼球運動神経経路への小脳関与のメカニズム解明のため確認すべき追加課題を検討する。 2. データ解析システムの整備:引き続き眼球運動の各パラメーターの解析のシステム整備を行う。計測に用いているビデオ式アイトラッキングシステムのサンプリングレートが500 Hzと高く計測データの情報量が膨大であるため、結果処理の自動化が必須である。小脳虫部不活化の動物実験で報告される眼球運動の加速・減速障害についても確認するため、潜時や振幅だけでなく速度についてのパラメーターについての検討もすすめる。 3. 他の疾患との比較:他の神経変性疾患、例えば基底核疾患であるパーキンソン病や小脳症状を伴う多系統萎縮症との結果と比較する。遺伝性脊髄小脳変性症症例でこれまでに示唆される潜時延長や振幅異常、それらの空間的分布につき、疾患特異性について検討する。 4. 眼と手の協働運動:眼球運動は運動に先立ち運動の準備となる空間的情報を得て運動に貢献していると考えられる。脊髄小脳変性症で実際にADLを規定する運動失調障害について眼球運動がどのように関わるのか確認するため、眼球運動と四肢の運動との協働運動を検討する。遺伝性脊髄小脳変性症群と年齢を合わせた健常対照群について、眼球運動課題に手の動きを加えた課題を行い、手と眼の動きの両方を計測しその関係を比較検討する。 5. 成果のまとめと発表:国内外の学会、英文論文誌での成果公表を予定する。
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