2016 Fiscal Year Annual Research Report
酸素配位八面体回転を活用した圧電・強誘電体材料の設計と第一原理計算による材料探索
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16H06793
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
赤松 寛文 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (10776537)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 圧電体 / 強誘電体 |
Outline of Annual Research Achievements |
圧電性および強誘電性は、反転中心のない結晶構造をもつ物質に特有の物性である。圧電効果とは文字通り、機械的および電気的なエネルギー・信号を相互に変換する機能であり、これを利用した数多くのデバイスが実用化している。こうした圧電体および強誘電体の多くはペロブスカイト型構造をもち、Pb2+のような不対電子対をもつイオンや、Ti4+のような2次のヤン-テラー効果を引き起こすイオン(d0電子状態)が、反転対称性の破れに大きな役割を担っている。そのため、このようなタイプの圧電・強誘電体の材料デザインは化学的に制限されている。こういった化学的な制限を打破するには、反転対称性を破る新たな原理を考える必要がある。 一方で、多くのペロブスカイト型酸化物(ABO3)において、酸素配位八面体BO6はAサイトカチオンの配位環境を最適化するために、結晶学的軸周りに回転している。このABO3ペロブスカイトの約90%においてBO6八面体は回転している。つまり、これはありふれた構造歪みであると言える。ABO3ペロブスカイトにおいては、いかにBO6八面体が回転しようとも、Bサイトに位置する反転中心は保たれる。しかし、ある種の層状ペロブスカイトにおいては、八面体回転により反転対称性は破れ得る。層状構造によりBサイトの反転中心を奪い、酸素配位八面体回転により残り全ての反転中心を奪うというのが本研究のアイデアの本質である。 本研究では、このアイデアに基づいて、高精度第一原理計算により、層状ペロブスカイト酸化物の一種であるRP/DJ混合相をターゲットとして、新規な圧電・強誘電体物質群を探索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、セルフコンシステント計算及び構造最適化におけるエネルギーと残留応力・フォースに対する収束条件、逆空間におけるサンプリング方法、そして用いる汎関数などについて、詳細かつ綿密に計算条件の設定を行った。 次に、インプット構造モデルを作成した。化学式AA’2B2O8をもつRP/DJ混合相は、RP相とDJ相が交互に積層されたような構造をとり、Bサイトに反転中心がないことがわかる(空間群I4/mmm)。したがって、酸素配位八面体の回転により、物質全体の反転対称性が破れる可能性がある。 本年度は、CaY2Ti2O8組成をもつRP/DJ混合相の基底状態構造を調べるために第一原理格子動力学計算った。まず、第一原理計算により母構造の格子定数および原子位置を十分に緩和させた後、フォノンバンド構造を計算し、不安定フォノンモードの有無をチェックした。多くの不安定フォノンモードが見つかったので、そのモードに応じて原子位置を動かし、より低い対称性とエネルギーをもつ構造を見つけた。その原子変位によってできた「子構造」を十分に緩和させた後、またフォノンバンド構造を計算し、不安定フォノンモードの有無をチェックした。それが無い場合はその物質の母構造が動力学的に安定ということになり、八面体回転モードを含むあらゆる構造歪みに対して全エネルギーが下がらないということを意味しているため、そこで計算をストップした。このようなルーチンを繰り返し、すべての子構造が動力学的に安定となった時点で、全エネルギーの最も低い子構造が基底状態構造とした。結果として、CaY2Ti2O8の基底状態構造は反転中心をもたない空間群P-421mに属することがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に引き続き、RP/DJ混合相の基底状態構造探索を進める。この際に、CaY2Ti2O8の基底状態構造探索の際に得た子構造をプロトタイプ構造として、その他の組成のRP/DJ混合相の全エネルギーを計算し、ハイスループットスクリーニングを行う。 実際に見つけることのできた反転対称性をもたない物質に対して、熱力学的安定性、圧電定数や自発分極を第一原理計算により評価する。特に磁性イオンを含む物質については、磁気基底状態を明らかにして、マルチフェロイック材料候補としての可能性を検討する。 さらに、得られた新規な圧電・強誘電性候補物質に対して、どのような構造歪みモードによって反転対称性が破れているのかということを群論に基づいて解析する。具体的には、対称性モード解析という手法により、その構造歪みモードが母構造のどの既約表現(の和)によって構成されているのかを明らかにし、そのモードの本質を理解する。 平成28年4月より、実験的研究を行うことのできる研究室に異動したため、第一原理計算により、発見することのできた圧電性・強誘電性物質を、実際に合成し構造・物性評価も行っていきたい。
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[Journal Article] Competing Structural Instabilities in the Ruddlesden-Popper Derivatives HRTiO4 (R=Rare Earths): Oxygen Octahedral Rotations Inducing Noncentrosymmetricity and Layer Sliding Retaining Centrosymmetricity2017
Author(s)
A. Sen Gupta, H. Akamatsu, F. G. Brown, M. A. T. Nguyen, M. E. Strayer, S. Lapidus, S. Yoshida, K. Fujita, K. Tanaka, I. Tanaka, T. E. Mallouk, V. Gopalan
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Journal Title
Chemistry of Materials
Volume: 29
Pages: 656-665
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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