2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16H06804
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
古賀 裕也 一橋大学, 大学院商学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (40780383)
|
Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
Keywords | リース会計 / 経済的帰結 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、リース取引のオンバランス化が及ぼす経済的帰結を検討することである。近年、国際会計基準審議会(IASB)はリース会計基準の改訂を行っており、オペレーティング・リース(OL)取引はオンバランス処理される予定となっている。本研究の内容は具体的に次の2つに分類される。1つ目はオフバランス処理されているOL取引の格付機関による情報利用の調査である。2つ目は予想されるリース会計基準の適用コストの実態調査である。平成28年度では双方の内容についての調査を行った。 まず、現行の日本基準の下でオフバランス処理されているOL取引が格付評価においてどのように評価されているかを検証した。その結果、日本企業に対して幅広いカバレッジを有する格付機関である投資格付情報センター(R&I)はOL債務の経済的実態を反映して異なるように格付評価している可能性があることがわかった。 また、OL取引オンバランス化の適用コストの実態調査を行った。平成28年度ではIASBが2016年1月に公表した「IFRS第16号「リース」影響分析」を基に、どのようなコストが生じ得るかを検討した。その結果、情報入力コストとITコストの2つに大別できることがわかった。情報入力コストとは、IFRS16号の適用に際してリース取引の棚卸情報収集に係るコストであり、ITコストは収集した情報を基に適切な会計処理を行うために必要となる会計ソフトに関するコストである。この2つのコストについてOL取引の利用率が高い異なる業種の3社に対してインタビュー調査を行った。その結果、OL取引1件あたりの金額的重要性が高い場合は適切な管理が行われているが、小口(少額)のリース契約に関しては子会社が独自でリースを行っていることもあり、リース契約の把握に事務的手数が掛かる可能性があるという意見を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
OL取引に対する格付機関の評価の調査では、一定程度の研究結果を得ることができた。具体的には、先行研究の議論を踏まえ、日本企業に多くの格付を付与しているR&Iの発行体格付を用いたところ、OL取引はR&Iの格付評価に基本的には織り込まれていることが明らかとなった。当該研究結果は国内外の学会で発表を行った。現在、学会で受けたコメントを基に論文の修正作業を行っている段階である。 OL取引オンバランス化の適用コストに関しては、先行研究を整理し、予想されうるコストを特定した。その結果、情報入力コストとITコストが生じる可能性があることがわかった。その内容に関して、インタビュー調査を行ったところ、OL取引1件あたりの金額的重要性が高い場合は適切な管理が行われており、IFRS16号の適用に伴って適用コストは生じない可能性があること、小口(少額)のリース契約に関しては事務的手数が掛かる可能性があるという意見を得た。現在は、インタビュー内容を踏まえ、適用コストを客観的に測定することが可能か否かについて議論・考察を行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、「リース取引と格付評価の関連性」の研究を発展させ、格付機関から銀行へと分析の射程を広げて、オフバランス処理されているOL取引の情報利用の調査を行う予定である。平成28年度の調査で明らかになったとおり、格付情報はオフバランス情報に関する有用な情報となっている可能性がある。そこで、格付情報が取得できるかどうかで、日本の銀行によるリース債務の情報利用に差が生じるかを追加的に調査する。具体的には、有価証券報告書から得られる借入利率を従属変数として、オフバランス処理されているOL取引を調整した検証モデルとそうでない検証モデルの説明力に差があるかどうかを検証する。同時に、発行体格付のデータの取得拡張を進め、ファイナンス・リース債務のオンバランス化を要請した会計基準に着目し、オンバランスかオフバランスかで銀行によるオフバランス情報の利用に差が生じ得るかを検討する。また、リース会計基準の適用コストに関しては、適用コストを客観的に定量化することが可能かどうかについて議論を深め、あるべき検証内容を導出し、研究を深めていく予定である。
|