2016 Fiscal Year Annual Research Report
明治・大正期の都市化をもたらした人口移動の実態把握
Project/Area Number |
16H06806
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
鈴木 允 横浜国立大学, 教育人間科学部, 講師 (70784651)
|
Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
Keywords | 人口移動 / 大正時代 / 寄留 / 都市化 / 女工 |
Outline of Annual Research Achievements |
明治・大正期の地域単位の人口変動に関する研究,とりわけ人口移動に関する研究が,統計資料の不完全さなどのために停滞している状況を打破するためには,新たな分析手法の確立が必要である。こうした研究課題に接近するために,本年は,愛知県東加茂郡賀茂村の1915(大正4)~1926(大正15)年の『寄留届綴』を用いた人口移動の分析を進めた。以下,詳細を具体的に述べる。 まず,資料としての利用可能性を慎重に吟味した。具体的には,1915年施行の寄留法による寄留制度の性格と実際の運用について検討し,従前の寄留制度との重要な変更点として,①寄留者を住所寄留者と居所寄留者に分けること,②寄留者の届出は原則として寄留先の1ヶ所のみで行うことの2点が確認された。本研究で用いた『寄留届綴』は,寄留地から,本籍地の賀茂村に送付された寄留に関する届出書類の原本の綴であることを確認し,寄留届に記載されている各種の情報をデータベース化することで,対象地域からの人口流出の実態を明らかにすることが可能であると結論付けられた。 その上で,寄留届に記載されている寄留者の個人属性や寄留先,単身か随伴かなどのデータを入力し,のべ2,120人分の賀茂村本籍者の寄留のデータベースを作成した。その分析から,寄留者の大部分が30代までの若年層で占められ,その多くは都市部へ流出であったことが確認された。ただしその中でも,①10代~20歳前後での,一時的な近隣への単身寄留と,②20~30代の世帯主とその同伴家族による,より遠隔地の都市部への寄留の2つのパターンが,比較的多数を占めた。①では,当時盛んであった繊維工業の女工の労働力としての寄留が目立ったが,学齢期の寄留も多く見られた。また②に関しては,大都市への寄留者は,居住地を変更しつつも大都市内にとどまる傾向が強い傾向が見出された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『寄留届綴』を用いた研究手法の確立に,一定の目途を立てることができた。実際にデータベースの作成を進め,予察的検討を行い,既存研究で明らかにされていない知見を示し得ることを確認できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,当初計画通り,① 史料のデータベース化の本格的な実施と,② GISを用いた人口移動の分析を進める。 ①については,28年度に行った賀茂村の大正年間の寄留届の入力作業に加えて,昭和初期の分の入力を進め,時代性を明らかにする材料とする。また,賀茂村以外の地域の寄留届も存在することが確認されているので,同様のデータベースの作成を行い,地域比較等から地域性を明らかにしていく。作業量がかなり膨大になる可能性があるので、入力を進める作業者を適宜,依頼する。 ②については、移動者の属性と移動の空間的なパターン、それらの相互関連性、移動の理由(寄留届の記載情報や寄留先等から,一定の分析が可能である)等の把握のため,GISを活用して寄留先等の空間パターンの分析を進める。 こうした作業から,大正年間を中心とした人口の変化に,寄留に見られる人口移動がどのように関わったかを検討し,産業化や明治期の高出生率といった時代背景の中で,人口変動がどのように生じたかについて考察していく。 また,資料論的な側面からの研究の深化も図る。具体的には,寄留地の選択理由や流入人口の動向など,人口移動の実態の解明や要因の分析を,他資料も併用しながら進めることや,寄留の実態について,統計資料論的な吟味も含めて検討していく。
|