2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16H06841
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田中 愛 信州大学, 医学系研究科, 研究員 (90786401)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | アドレノメデュリン / 腫瘍血管新生 / 血管恒常性 / 転移前土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
生理活性ペプチドであるアドレノメデュリン(AM)と、その受容体活性調節タンパクRAMP2の持つ血管恒常性維持機構を解明し、腫瘍転移抑制法に応用展開するため、成体になってから遺伝子欠損が可能な、誘導型の血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)を樹立した。 腫瘍を足底部に移植し、遠隔臓器への転移実験を行うと、コントロールと比べ、DI-E-RAMP2-/-では転移が亢進した。RAMP2欠損後、転移先となる肺では、早期から炎症細胞が集積し、それに伴い炎症性サイトカインが上昇、さらに炎症が持続し、S100A8/A9やSAA3などの腫瘍細胞遊走因子の発現が亢進し、転移前土壌が形成されることが明らかとなった。 次に、腫瘍の転移促進に関わる因子を解明するため、RAMP2欠損後に血管内皮細胞を初代培養し、遺伝子発現変化を検討したところ、炎症性接着因子であるICAM-1/VCAM-1の発現が有意に亢進していた。そこで、DI-E-RAMP2-/-の大動脈を回収し、TNF-αによる炎症刺激を行うと、血管内皮細胞の表面に多数の突起(マイクロビライ)が観察された。一方、血管内皮細胞特異的RAMP2過剰発現マウスでは、それらの変化が抑制され、内皮細胞の形態が保たれていた。さらにDI-E-RAMP2-/-ではRAMP2欠損後、著明な全身性浮腫を生じるが、Rac1/RhoAバランスの異常がアクチン重合状態に変化を生じ、血管透過性が亢進することを明らかとした。さらに、内皮細胞にAMを投与すると、VE-カドヘリン接着の増強とともに、アクチンが細胞間接着部位に集積することを見出した。 以上の結果から、血管のRAMP2欠損により①血管恒常性が破綻し、慢性炎症が生じること、②腫瘍や炎症細胞が接着しやすい血管となり、細胞間接着も脆弱化し、腫瘍転移に促進的に働くことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
誘導型の血管内皮細胞特異的 RAMP2 ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)の樹立に成功し、マウスが成体になってから RAMP2 遺伝子の欠損誘導を行うことが可能となった。これにより、従来はノックアウトマウスが胎生致死であるため、成体での解析が困難であった点を克服し、AM-RAMP2 系の成体での病態生理学的意義を検討することが可能となった。これまでの検討から、DI-E-RAMP2-/-では、B16F10 メラノーマの皮下移植において、血管新生は減弱し、腫瘍増殖が抑制されていた。その一方で、B16BL6 メラノーマを用いて、原発巣摘出後の遠隔臓器への転移の検討を行ったところ、DI-E-RAMP2-/-では肺への転移が亢進するという結果が得られている。AM-RAMP2系を活性化することで転移を抑制できるのか検討を行うと、RAMP2過剰発現内皮細胞では腫瘍細胞の接着を抑制し、血管内皮細胞特異的RAMP2過剰発現マウスでは腫瘍転移を抑制し、生存率の改善を認めることが明らかとなった。AM-RAMP2系の転移抑制メカニズムを解明するため、移植した腫瘍内の血管をインドシアニングリーン(ICG)で描出してみると、AM投与群では、腫瘍内血管が太く、安定化していた。これらのことから、AM-RAMP2系は腫瘍血管の走行を正常化することが明らかとなった。一方、癌の転移においては、血行性転移に加え、リンパ行性転移が大きな問題である。そこで、リンパ管におけるRAMP2の病態生理学的意義を明らかにするため、リンパ管特異的に発現しているProx-1遺伝子プロモーターを利用したCreリコンビナーゼトランスジェニックマウスとRAMP2floxマウスを現在交配させ、薬剤誘導型のリンパ管特異的なRAMP2ノックアウトマウス (DI-LE-RAMP2-/-)を用いた検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
内因性のAM-RAMP2系が血管の恒常性維持に働き、腫瘍転移に抑制的に働いていることが示された。これまでの検討では、血管内皮細胞のAM-RAMP2系は腫瘍内の血管新生を促進し、腫瘍重量を増加させる結果が得られた。しかしながら、腫瘍内の血管のイメージングを行うと、AM投与群では腫瘍内血管が安定化することが示された。本研究では、AMと抗がん剤との併用投与により、原発巣の性質にどのような影響を与えるのか検討を行う。さらに、血管内皮細胞のRAMP2が欠損することで、癌転移が促進する結果が得られたことから、成体において遺伝子欠損誘導後より、原発巣、血管、転移先臓器に起こる変化を経時的に観察し、一連のプロセスの中で癌細胞の増殖、浸潤、転移に関わる因子を明らかにする。転移前土壌となりうる血管の構造変化、血管の炎症、癌細胞の接着、癌転移を促進させる腫瘍遊走因子産生などを検討することで、癌転移抑制のための新しい治療戦略の足掛かりとする。腫瘍細胞そのものだけでなく、腫瘍を取り巻く腫瘍微小環境にも着目し、マイクロアレイを用いて網羅的な解析も進める。また、DI-E-RAMP2-/-では血管のRAMP2が欠損すると著明な全身性浮腫が観察される。これは内皮細胞間接着が脆弱になり、血管透過性が亢進した結果と考えられた。一方、内皮細胞にAMを投与した所、VE-カドヘリン発現の亢進と同時にアクチンの局在が変化し、VE-カドヘリン陽性部にアクチンの束が集積する様子が観察された。cAMPはEpac-Rap1シグナルを介して、VE-カドヘリン接着を増強し、それにより血管透過性を抑えていることがわかっているが、AMがそのシグナルに関与しているかは未だ報告がない。今後の課題として、AM-RAMP2系の持つ血管恒常性維持機構を様々な側面から解析し、癌転移抑制薬への応用に繋げていく予定である。
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Research Products
(7 results)