2016 Fiscal Year Annual Research Report
イネのABAシグナル伝達機構を解明するための分子ツールの創製
Project/Area Number |
16H06848
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
竹内 純 静岡大学, 農学部, 助教 (00776320)
|
Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
Keywords | 植物ホルモン / アブシジン酸 / ケミカルバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
アブシジン酸(ABA)受容体(PYL)の結晶構造に基づいて創出したPYLアンタゴニスト(PANMe)はシロイヌナズナに対してin vitroおよびin vivoでABA拮抗活性を示す一方,単子葉植物であるイネに対しては種子発芽と節間伸長を阻害するABA様の生物活性を示す。そこで本研究では、イネにおいてはPYLを介さないABAシグナル伝達機構が存在する可能性が高いと考え、これを証明するために、PANMe標的タンパク質(PYLとは異なる未知のABA受容体)を探索するための基盤研究を行った。本年度は先ず、イネのPYL受容体(OsPYL)に対するPANMeの活性を評価するために、ABAとの三者複合体結晶構造が報告されているOsPYL2とタンパク質脱リン酸化酵素OsPP2C06を大腸菌発現系により調製し、in vitro試験系を構築した。PANMeは予想通りOsPYL2に対してアンタゴニスト(ABA拮抗剤)として機能し、イネ植物体におけるPANMeのABA様活性はOsPYLを介していないことが強く示唆された。次にPANMeの構造展開を行った。PANMeはイネに対してABA様活性を示すものの、その強さはABAの1/30と弱いため、化学ツールとして用いるにはより強力なABA様活性を有する化合物が必要になる。そこでPANMeの構造の一部を修飾して、イネにおけるABA様活性の増強が可能かどうか検討した。その結果、芳香環パラ位の置換基を改変することで生物活性が大きく変化し、特にペンタフルオロスルファニル基を導入したPANSF5ではPANMeよりも10~30倍強いABA様活性を示すことを明らかにした。また、テトラロン骨格を有するABAアナログ(PAO4)がイネ植物体に対してもABA拮抗活性を示すことを見出し、PAO4の構造活性相関を解析してプローブ化する際に構造修飾が可能な部位を調査した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りPANMeを構造展開し、イネに対してより強力なABA様活性を示すPANMeアナログ(PANSF5)を創出することに成功した。また、OsPYL2とOsPP2C06を用いて構築したin vitro PP2C活性試験系でPANSF5を含むPANMeアナログの活性を評価したところ、それらはいずれもOsPYLアンタゴニストとしたことから、イネにおけるPANMeおよびPANSF5のABA様活性はPYL受容体を介さずに誘導されていることが強く示唆された。これらの結果は、研究代表者らの仮説「イネにおいてはPYLを介さないABAシグナル伝達機構が存在する」を支持するものである。また、平成29年度に計画していた、イネにおいてABA拮抗活性を示す化合物(PAO4)を分子ツールとして展開するための基盤研究に関しても、本年度既に一部実施している。PAO4の構造展開を行い、光親和性標識プローブを設計・合成する際に活性を低下させることなく、光反応性官能基および検出器導入用タグの導入可能な部位を査定した。一方、植物体内におけるPANMeおよびその構造アナログの安定性確認に関しては、LC/MS/MSを用いて分析条件は確立したものの、実際の分析までには至らなかった。今後、最も強いABA様活性を示したPANSF5を用いてイネ植物体での代謝安定性についても評価する予定である。また、本年度得られた成果をまとめて、植物化学調節学会および日本農薬学会で発表した。 以上、上記の進捗状況より総合的に判断して、研究は概ね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、PANMe/PANSF5(PAN)およびPAO4はPYLとは異なる未知ABA受容体またはABA binding proteinに結合してそれを活性化/不活性化していると考えらえる。そこで、イネにおいてABA様活性を示すPANおよび/またはABA拮抗活性を示すPAO4に光反応性官能基と検出基導入用のバイオオルソゴナル(生体内での反応性が低い)官能基を導入した二官能性non-RI光親和性標識プローブを設計・合成し、化学修飾法を用いて未知ABA受容体を同定するための基盤研究を行う。このプローブの特徴はRIを用いることなく光ラベル化されたタンパク質を解析できることと、プローブ化の際に、光反応性官能基(ジアジリニル基など)と小さなバイオオルソゴナル官能基(アジドメチル基やエチニル基)を導入するだけでよいため、プローブ化に伴う生物活性の低下を最小限に抑えられることである。両官能基の導入部位については本年度得られたPANおよびPAO4の構造活性相関に基づいて決定する。 合成した二官能性non-RI光親和性標識PAN/PAO4アナログの両官能基が設計通り機能するかどうかを、先ずPANおよびPAO4と結合することが分かっているPYL受容体を用いたin vitroモデル試験系により検証する。両官能基の有用性が確認できた場合には、それらをイネ細胞抽出液に添加してUV照射することでプローブと標的タンパク質を共有結合でクロスリンクさせ、続いてclick反応等により蛍光性検出基を導入する。その後、検出基を足掛かりに標的タンパク質を探索する。 また、PANSF5および光親和性標識プローブのイネ植物体内における安定性についてもLC/MS/MS分析により確認する。
|