2016 Fiscal Year Annual Research Report
皇室の土地所有に関する一考察―神話の地に置かれた御料地はなぜ短期間で処分されたか
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16H06879
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 さなえ 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (10781205)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 日本史 / 近現代史 / 皇室財産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「交付申請書」中の「研究の目的」、「研究実施計画」通り、刊行史料調査を終え、伊勢・志摩御料地の編入・除却に至る基本的な情報を明らかにすることを得た。また、宮内庁書陵部宮内公文書館の調査により、三重県所在御料地の図面を写真撮影することを得た。宮内公文書館では、「帝室林野局 事業録」により、三重県所在の御料地を管理する度会事務所に関する公文書類を確認できたが、ここには伊勢・志摩御料地の除却に関する情報は存在しないことが明らかとなった。 当初「研究実施計画」で想定していた三重県における公文書調査であるが、事前の所在調査の段階で、御料地に関する史料の所在がないことが判明した。 一方、以上のような史料調査の困難に直面し、当初は想定していなかった大日本山林会林業文献センターにおいても史料調査を行ったが、そこでは学内図書館に全巻の所蔵がない雑誌『御料林』の存在が確認でき、それにより後年の回顧録ではあるが、伊勢・志摩御料地に関する記述が発見できた。 こうした史料調査により、一本の論文を構成するには十分とはいえないが、論文の一章を構成するには十分な素材をそろえることができた。 また、史料調査の副産物として、明治10年代の「山林荒廃説」(明治維新後、日本の山林は荒廃したという、御料地・官有地管理にあたる当局者がしばしば用いた議論)に関する史料がまとまって見つかったことにより、国際ワークショップ「近世・近代日本の環境と技術―グローバルな視点から」において、口頭発表「皇室と森林保護―木曾御料林を事例として」を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
刊行史料の調査は、「交付申請書」の「研究実施計画」通り完了した。これにより、伊勢・志摩御料地の編入・除却にいたる経緯はほぼ明らかになった。しかし、当初計画していた三重県での公文書調査に関しては、同県に御料地の除却に関する十分な史料が存在していないことが明らかになり、調査を断念した。 また、宮内庁書陵部宮内公文書館には想定通り三重県の御料地を管轄する度会事務所に関する公文書が存在していた。また、三重県所在御料地の位置を特定する上で重要な図面も数種類発見でき、写真撮影を行った。明治20年代の編入直後の御料地の位置や面積などは従来の研究では全く明らかにされてこなかったものであり、その図面すら掲げられてこなかった。申請者はこれまで北海道・長野・静岡県の御料地地図を作成し、公開してきた実績を持つが、三重県の御料地に関しても地図を作成し、公開することができれば研究史上初の成果であり、今後の研究に資する影響は大きい。しかし、そのほかの宮内公文書館所蔵史料の多くは、度会事務所での日常的な業務(御料地内の立木の地元住民や村落などへの日用目的での払下げなどに関する申請・許可書類など)に関する書類群であり、除却に際しての具体的な経緯や議論がわかる史料は発見できなかった。 更に、学会報告や研究会での報告、論文等の執筆や学会運営活動などのタスクが大きくなり、当初計画通りのエフォートを本研究に割くことが難しくなり、研究成果を発表することができなかった。 以上より、本年度の研究は当初の想定に比べると遅れているといわざるをえないが、伊勢・志摩御料地に関する本研究の成果を、次年度に行う宮崎県所在御料地に関する議論の前提として論じることで、成果を発表することは十分可能であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記【現在までの進捗状況】でも触れた通り、本年度の研究成果を次年度の研究成果を論文化する際の一章として配置し、イデオロギー的理由で編入されたにも関わらず、経済的理由で処分された御料地に関する総論を形成する。それにより、創業期の御料地に関する特徴的な一つの性格をあぶりだすことを目指す。このようにすることで、本年度に十分単独では成果を公表することが難しかった伊勢・志摩御料地に関する調査の結果を生かすこともでき、また次年度の研究をより説得的に論ずることにもつながると考える。 具体的な研究の進め方としては、まず4月から5月に学内図書館等で刊行史料の調査を行う。同時に、宮内庁書陵部宮内公文書館・宮崎県所在の一次史料の所在に関しても調査を行う。その結果をもとに、6月から12月にかけて、宮内公文書館・宮崎県文書センター・宮崎県立図書館・宮崎県総合博物館に史料調査・収集に臨む。宮内公文書館では、宮崎県所在諸県御料地に関わる宮内省側の会議史料や、宮内省側に残された地元自治体発信の公文書、御料地図面などを調査する。宮崎県では、諸県御料地の編入・払下げに関する地元での議論がわかる史料や、地元に留め置かれた公文書の草稿や控などを調査する。 これと並行して、諸県御料地の編入・払下げに関わった人物を特定し、その人物の私文書(日記や書簡など)の調査も行う。具体的には、国立国会図書館憲政資料室所蔵の政治家関係文書を中心に調査を進める。 以上の調査を行った上で、1月から3月には研究発表を行い、そこで得られた知見、及び本年度の調査の結果を合わせて論文を執筆する。現時点では、『日本史研究』への投稿を予定している。
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