2016 Fiscal Year Annual Research Report
脳動脈瘤コイル塞栓術時の瘤内における血栓形成の術前予測シミュレータ構築
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16H06917
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大谷 智仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40778990)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 計算バイオメカニクス / 脳動脈瘤 / 数値流体計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度において,①コイル塞栓された脳動脈瘤内の血流場に対する大規模症例解析にむけた,簡便かつ高速な数値流体計算ソルバの開発および,②コイル塞栓後の瘤内における血栓形成の現象論的モデリングの2つを行った. コイル塞栓後の脳動脈瘤内部では,複数のコイルが絡み合う複雑な形状をとる.そのため,有限要素法・体積法での解析に必要な非構造格子生成の人的コストが大きく,多数症例の解析は困難だった.この問題に対処するため,コイル塞栓瘤内の流体領域を直交格子上に陰関数として表現し,有限差分法による数値流体計算ソルバを開発した.これにより流体計算における格子生成を完全に自動化することに成功した.開発したプログラムはMPIとopenMPのハイブリッド並列化に対応しており,簡便かつ高速な流体計算が可能となった. 構築した数値流体計算ソルバを用いて,コイル塞栓瘤内における血栓形成の現象論的モデルの開発を行った.このとき,血流のせん断率の減少による血栓形成と,血栓の形成による血流への流体抵抗の増加をともに表現することを考えた.血流中におけるせん断率の減少と血栓の体積率との関係をヘビサイド関数により表した.さらに,血栓形成が生じた流体領域を均質な多孔質体領域としてモデル化し,血流中の血栓の体積率に応じて流体抵抗が増加すると現象論的にモデル化した.開発した数値流体計算ソルバに対して,構築した血栓化のモデルとの連成計算を行った結果,コイルの分布によっては瘤全体の血栓化が不完全となる症例が見られ,これは臨床での観察結果とよく一致した. 結輪として,平成28年度は①の目標である数値流体計算ソルバ開発,②の血栓形成モデルの構築までを達成できた.平成29年度では,開発したシミュレータを複数症例に対して適用し,脳動脈瘤に対するコイル塞栓治療の機序解明に向けた物理的考察を行う.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,複雑なコイル形状を含む瘤内血流動態を安定かつ簡便に解析可能な数値流体計算ソルバの開発に成功した.さらに開発した数値流体計算ソルバを用いて,コイル塞栓後における脳動脈瘤内の血栓形成の現象論的モデリングを行い,血栓形成と血流動態との相互依存を数理モデルにより表した.計算結果は臨床での観察所見とよく一致しており,コイル塞栓後における瘤内血栓化の機序解明に向けて,開発した一連のソルバおよびモデリングの有効性を確認できた.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に開発した数値流体計算ソルバおよび血栓形成の数理モデルを用いて,患者個別に最適なコイル塞栓術の診断・治療手法を提供するフレームワークを構築する.コイル挿入の際の挿入条件やコイルの物性を変化させ,血流-血栓形成連成解析の試行実験を反復して行う.瘤全体の血栓化が達成される場合において,コイル塞栓による瘤内の血流動態の変化を流体力学的観点から検討するとともに,その際のコイルの状態を定量的な評価指標を用いて調べる.患者別に得られた結果を統計的に評価することで,患者特異の病態に依存せず,瘤全体の血栓化を達成するための条件群を模索する.
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