2016 Fiscal Year Annual Research Report
両大戦間期の「進歩的な」シューベルト論:アドルノ、シェーンベルク、シェルヘン
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16H06920
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山口 真季子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (40782214)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | フランツ・シューベルト / ヘルマン・シェルヘン / アーノルト・シェーンベルク / テオドール・アドルノ / 両大戦間期 / 作品受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、シューベルト作品に対する評価の転換点として、両大戦間期のシェーンベルク・サークルに着目するものである。具体的には思想家テオドール・アドルノ、作曲家アーノルト・シェーンベルク、指揮者ヘルマン・シェルヘンを取り上げ、彼らがどのようにシューベルトを肯定的に評価したのか、彼らのシューベルト理解が戦後どのような波及を見せたのかを明らかにすることが本研究の目的である。本年度は、シェルヘンのシューベルトに対する評価、解釈の考察を中心に行った。まずシェルヘンの三冊の著書を中心に読込を進め、シェルヘンの音楽観や楽曲分析の手法を把握したうえで、ベルリン芸術アカデミーにおいて資料調査を行い、シェルヘンがシューベルトの交響曲ロ短調D759およびハ長調D944について論じた未出版の原稿をもとにシェルヘンのシューベルト解釈を検討した。 シェルヘンの解釈からは、シューベルト作品の音楽構造や表現記号に対する新たな意義づけが見られたが、それは同時代の音楽創作の視点に通じるものといえる。またシェルヘンのラジオ放送への関わりを取り上げたMechthild Kreikleの博士論文(1994)や、シェルヘンがラジオと音楽について論じた雑誌論文等に目を向けることによって、シェルヘンの音色や音響に対する関心と、彼の音楽教育に対する考え方を把握することができ、シェルヘンのシューベルト解釈を考察するうえでも重要な観点となった。 さらにアドルノ、シェーンベルクについては刊行されたそれぞれの著作について、内容の把握に努めた。そこからは、彼ら三者の語彙における共通性とともに、その含意における差異が見えてきた。このことは、今後三者のシューベルト解釈の関係を明らかにする際に重要な点となってくるはずである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、予定していた刊行資料の収集と整理、およびベルリンでの一次資料調査を行うことができ、おおむね順調といえる。シェルヘンがシューベルトを論じた原稿については、当初一つの論文にまとめるつもりだったが、想定していたよりも多様な論点を含んでおり、複数に分けることを考えている。その内容整理のため成果発表が遅れたが、近くまとめられる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まずシェーンベルクのシューベルト作品への関わりについて、これまでの刊行資料による把握に加え、ウィーンで資料調査を行うことによって作品分析や編曲手法についてより詳細な検討を行う。また彼らの影響を考えるにあたり、彼らの音楽解釈と戦後の音楽美学的議論との照応を明らかにするとともに、アドルノ、シェルヘンの人的交流にも目を向けたい。
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