2016 Fiscal Year Annual Research Report
地方自治との関係における国の活動の限界――議会によるコントロールの観点から
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16H06924
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
柴田 尭史 大阪大学, 法学研究科, 助教 (30779525)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 議会 / 地方自治 / 分権化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度の研究実績の概要については、以下の通りである。 まず申請テーマに関する日本とドイツの文献の収集に多くの時間を充てた。ドイツの文献については日本での収集には限界があるため、2017年2月10日より2月22日までベルリン、ハンブルク、およびハイデルベルクで文献の調査と収集を行った。その際、基本法の地方自治に関する文献だけでなく、各州の憲法と地方自治法に関する文献も重点的に収集した。 ドイツ滞在中に、ベルリン・フンボルト大学クリスティアン・ヴァルトホフ教授(公法・財政法)、およびブツェリウス・ロースクール(ハンブルク)クリスティアン・ブムケ教授(公法・法理論)と面談し、ヴァルトホフ教授からはドイツの各州と地方自治体の関係について、ブムケ教授からはドイツの連邦制(連邦と各州の関係)について有益な情報を得た。 また、3月に来日中のハイデルベルク大学ヴォルフガング・カール教授とは州と地方自治体の関係について、ミュンヘン大学アン‐カトリン・カウフホルド教授とは地方自治をめぐる最新の法問題について、地方自治の専門家であるポツダム大学ハルトムート・バウアー教授とは最近の州憲法における地方自治の問題について、それぞれ意見交換ができた。 研究の内容面では、従来の日本における憲法・行政法学における「地方自治」をめぐる議論を再検討し、整理した。憲法学でも「地方自治の本旨」(憲法92条)は議論されてきたが、「住民自治」と「団体自治」という要素の説明にとどまってきた。それに対して、行政法学では、両要素に積極的な意義を認めた上で、地方自治に関する法律の意義と機能、およびその限界を特定し、それぞれの地方自治体の権限を検討してきた。行政法におけるこの議論は、ドイツにおける議論を検討する際、ドイツにおいて法律が地方自治の法相にとってどのような役割をしているのかを検討する際の出発点となると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、文献収集についてであるが、9月の科研費の交付開始時より、日本の憲法と行政法の文献についても、ドイツの連邦制に関する文献についても、収集が順調に進んだためである。また、ドイツにおける文献調査においても、日本で収集が困難な文献とともに、各州の憲法と地方自治法に関する文献も収集できたことも研究の進捗にとって決定的であった。 また、2017年2月のドイツ滞在中のヴァルトホフ教授とブムケ教授との面談、および3月に来日中のドイツ人研究者との意見交換の中で、ドイツにおける地方自治と議会の最新の法問題について非常に有益な情報が得られたことも理由にあげられる。 研究内容では、日本の従来の議論の整理が進んだことにより、議会法律の地方自治に対する機能と限界が明らかになったことである。ただ、従来の議論は、国によるコントロールの過多が問題であったが、現在の分権化の議論においては国からの自治体への権限委譲の在り方、および自治体による権限遂行の可能性が問題となっている。この問題に対して、州が地方自治体に権限を委譲する際に財源の確保が要請される「Konnexitätsprinzip(牽連性の原理)」についてヴァルトホフ教授と議論し、分権化が議論されている日本における「地方自治の本旨」、およびその立法による具体化の議論にとって非常に参考になる法制度であることが確認された。また、連邦制に関しては、憲法改正によって制度変更が可能となるが、憲法改正によって州の立法権限がどのように変化するのか、に関して検討する端緒を獲得できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の2017年度は、2016年度に収集できたドイツ語文献の精読、および議論の精査から始め、上記の「牽連性の原理」の議論状況を検討する。このことによって、伝統的に地方自治体に権限として認められてきた条例制定権、財政権などと並んで、地方自治体の権限を遂行する権限の確保を問題の中心として、検討を進めていく。また、連邦制に関しても、憲法改正によって州の立法権限がどのように変化を受けてきたのか(立法権限の縮減)、に関するドイツの議論を検討する。 研究協力者とも意見を交換する機会を積極的に設け、日本とドイツの議論について助言を受ける。また、これらのドイツの議論の検討をまとめるべく、2017年度末に再度ドイツに滞在し、前述のヴァルトホフ教授、カール教授などに面会し、意見の交換、および助言を受け、さらに追加の文献を収集する。このことによって、議論の正確性と客観性を担保することに努める。 以上の方法により、2016年度の日本の議論の再検討・整理を踏まえ、分権化時代の日本の地方自治のあり方を探求し、そこにおける国の議会とその法律の意義と機能、および限界(議会によるコントロールとしての地方自治の意義)を検討する。以上のことによって、論文にまとめ、公表し、本研究費の成果としたい。
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