2016 Fiscal Year Annual Research Report
数値シミュレーションによるガスメタルアーク溶接プロセスの制御技術の開発
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16H06937
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
荻野 陽輔 大阪大学, 工学研究科, 助教 (30778262)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ガスメタルアーク溶接 / 数値シミュレーション / アークプラズマ / 溶滴移行 / 電流波形 / 表面張力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題においては,自作のシミュレーションモデルを用いて,ガスメタルアーク溶接プロセスにおけるアークプラズマならびにワイヤ電極の溶融・離脱現象に対して,電流波形やワイヤ電極の物性値が及ぼす影響についてまとめ,プロセスの制御指針を策定することを目的とした. 矩形パルス電流を対象として電流波形が溶滴ならびにアークプラズマに及ぼす影響について考察した.ピーク電流を通電する時間(ピーク時間)を変化させて,溶滴挙動に及ぼす影響について検討した.その結果,ピーク時間の短い領域においては1つの溶滴を離脱させるのに複数のパルスを必要とする「nパルス1ドロップ溶滴移行」,長い領域においては1つのパルス中に複数の溶滴が離脱する「1パルスnドロップ溶滴移行」,これらの中間的な領域において1周期のパルスに対して1つだけ溶滴が離脱する「1パルス1ドロップ溶滴移行」となることがシミュレーションできた.1パルス1ドロップ溶滴移行となる条件の下では,溶滴の離脱挙動のみならず,アークプラズマの温度変動なども規則的な挙動を示しており,安定したプロセスが達成されることがシミュレーションにより示唆された.このように,シミュレーションによってプロセス中の溶滴・アークプラズマの詳細な特性が可視化され,制御指針を立てるうえで重要な知見を得ることができた. さらに,ワイヤ電極の物性値の影響を評価するためワイヤ電極の表面張力を変化させて,同様にパルス電流を用いてシミュレーションを行った.その結果,ワイヤ電極の表面張力が小さい場合においては,1パルス1ドロップ溶滴移行となるピーク時間は短い領域へとシフトすることが分かった.これは,溶滴の離脱挙動が電磁力と表面張力のバランスで決まることを示している.すなわち,プロセスの制御を達成するためには電流波形とワイヤ電極の物性値の両面から検討することが必要であることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予期していた通り,自作しているシミュレーションモデルにおいては,不具合修正や改良を適宜行っているが,大幅な修正は必要とならなかったため,おおむね順調に研究を進捗させることができた. また,当初予定していたとおり,電流波形やワイヤ電極の物性値(表面張力)がガスメタルアーク溶接プロセス中のアークプラズマならびに溶滴に及ぼす影響をシミュレーションにより考察することができ,安定なプロセスが達成されると考えられる1パルス1ドロップ溶滴移行となる条件範囲が存在することがシミュレーションにより示された.さらに,ワイヤ電極の物性値として表面張力の影響を考察することにより,溶滴の離脱挙動に対してはワイヤ電極先端の溶融金属を引きちぎろうとする電磁力と,溶融金属を支えるように作用する表面張力のバランスが重要であることが示された.すなわち,ガスメタルアーク溶接プロセスをコントロールするためには電流波形ならびにワイヤ電極の物性値の両面からアプローチする必要があることが示された.一方で,シールドガスの影響に関しては,プラズマガス物性値を整備することに時間がかかり,現状においては不十分な部分があるため引き続き検討する必要があると考えている.研究の効率化のためのシミュレーション高速化に関しても,不十分な点があるため合わせて検討する必要があると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
シミュレーションモデルの修正ならびに改良は必要に応じて適宜行っていくこととする.次年度においては,ここまでで得られたシミュレーション結果を検証することがメインの取り組みとなる予定であり,検証結果を踏まえて安定したガスメタルアーク溶接プロセス開発に向けた電流波形についてシミュレーションをベースとして提案・検討する. まず,シミュレーション結果の検証のために,同様の電流波形を用いた際のシミュレーション結果と実験結果を比較する.本課題においては,市販の溶接電源を用いてパルス電流を出力し,1周期のパルスに対して1つの溶滴が成長・離脱する1パルス1ドロップ溶滴移行となる条件範囲を確認するとともに,高速度カメラを用いて電流波形に応じたアークプラズマや溶滴の挙動を観察し,溶滴の大きさや落下速度,アークプラズマの外観などシミュレーション結果との比較対象となる情報を得る.これと同様の条件におけるシミュレーション結果を比較することで,シミュレーション結果の妥当性を検証する. シミュレーション結果の妥当性が確認されれば,電流波形に対応したアークプラズマや溶滴の詳細な特性について考察を行い,1パルス1ドロップ溶滴移行のような安定したプロセスを達成するために必要な因子について詳細に検討する. これらの考察を踏まえて,アークプラズマならびに溶滴の挙動が安定したガスメタルアーク溶接プロセスを実現するのに適した電流波形についてシミュレーションをベースとして検討・提案する.ここでは,シールドガス種やワイヤ電極の物性値(表面張力)の影響も含めた幅広い条件におけるコントロール指針を策定することを目指す.
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