2016 Fiscal Year Annual Research Report
土楼建築の建造過程と親族組織の再編に関する社会人類学的研究
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16H07005
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
小林 宏至 山口大学, 人文学部, 准教授 (40781315)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 客家 / 土楼 / 宗族 / 民間建築 / アフォーダンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は中国福建省の民間建築である土楼の建造過程と漢族の父系出自集団である宗族の再編過程の分析を通して、家屋と社会集団の双方的な関係を描き出すことにある。現在、福建省永定県の土楼の実測を通して、家屋の形状を記録する活動を続けている。また同時に土楼建造時の状況、部屋割りなどに関する聞き取り調査を行っている。 これまで調査者は、土楼群が林立する地域の事例として、福建省永定県の湖坑鎮付近を中心に調査を行っていた。それは同地を調査することで代表的な土楼の建造過程が理解できると考えたためである。しかし現在は調査の範囲をその周辺地域、永定県南渓村、高頭村の方へと拡大し、土楼建造と新たな村落生成の移住過程との関係も視野に入れて調査を進めている。 本研究課題で問題とするのは、福建省西部山岳地帯における宗族の形成過程に、土楼という家屋がいかに影響を与えているかということである。一般に宗族は新たな祖先を祀ることで分節を形成し独立していくと考えられてきたが、この研究課題を通して明らかにされるのは、新たに祖先をたてる以前に居住者の分断が土楼建造によって行われるということである。少なくとも永定県湖坑鎮のいくつかの土楼ではそのような傾向をみることができた。しかし、それは同一村落内で起こった事例であり、村落を越えた範囲での事例は採取していない。そのため現在、他の場所で社会集団の移住経路と移住時期、土楼建造の記録などの調査を行っている。より具体的には福建省永定県湖坑鎮の南渓村の奥部(平和県との境界付近)の江氏が、どの段階で高頭村から移住してきたのか、その成員がどのように選ばれ、最終的にどの段階で祖先が選定されたのかを調査している。この調査によって土楼建造と宗族組織の関係がより明らかになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題を進めるにあたって、既にいくつかの土楼にて聞き取り調査および実測を行い、土楼建築と親族組織のデータを集めることができた。そのため研究は計画通り「おおむね順調に進展している」と言える。しかしこれらのデータはあくまで、ある村落内部だけで発生した一部の事例に過ぎない。また土楼建築と親族組織の基礎データは決して十分とはいえないため、今後、補足調査でいくつかの事例を採取する必要がある。 これまで得てきた調査データは、親族関係の聞取り情報と土楼建築の実測データである。これらは漸次、親族関係図化および3Dデータ化しているが、すべてが完了しているわけではない。引き続きデータの整理と視覚化に努めていく必要があるが、一定程度の見通しがついているため、2017年度、前半のうちに完了するものと思われる。 研究内容に関しては、基本的に大きく研究の方向性を変更する予定はない。これまでいくつかの研究会、学会にて発表を行ってきたが、基本的に研究の意義に関しては多くの研究者から理解を得られたと感じている。これまでに多かったコメントとして、新たな土楼建造は新たな宗族の生成と言えるのか、という問題であった。また土楼居住者が新たな祖先を政治的(恣意的)に選択していくという部分にも多くの意見が寄せられた。この点に関しては、2017年度の研究の推進方策に反映させることで、補完的なデータを集め、議論の深化を図っていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下2つの観点から調査・研究をすすめていく。①村落から村落へ移住した際に、土楼建築と親族組織がどのように関係するのかという問題。②複数のクランが出資した土楼建築の場合、その後土楼の居住者はどのように変化するのかという問題である。①に関しては、福建省永定県の高頭村から南渓村へと移住した際に、江氏のどの系譜から、どれだけの人数が移住し、土楼建造に際してどのような成員が選定されたのかという記録を明らかにすることである。これによって、村落内部だけではなく、村落を越えての移動がなされたとき土楼建造の成員がどのように選出されるのかが明らかになる。これまでの事例は距離的に近い土楼を対象としていたため、祖先祭祀や生業において新たな土楼建造後の変化がほとんど見られなかった。しかし村落を越えての土楼建造の場合、生業、日常的な祭祀活動において変化が顕著に現れると思われる。また②に関して、永定県に隣接する南靖県において、複数のクランが建造した土楼が存在することが報告されている。この土楼がどのような経緯を経て、複数のクランの管理から一つのクランの管理へと移行したのかを分析する。この分析を介して、土楼建造の際においては明確に分かれていた社会集団の上位世代との関係が、新たな土楼に移住後、世代を追うごとに居住者が偏向していく様を描くことができると考える。 これらの調査、分析は昨年度までに集めたデータの補完的な調査データを集めること、集めたデータを整理・分析し、親族関係と居住形態、移住の関係を明確にすることで完成する。その際、CADやイラストレータなどのソフトを用い、視覚的に分かりやすい図を作成することを目指す。また一方でフラッシュ動画などでも研究成果を分かりやすく提示できるように努め、ひろく社会一般に研究意義が伝わるような発表の仕方を考えていく。
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