2016 Fiscal Year Annual Research Report
ケモカインを指標とする胸腺萎縮の分子メカニズムの解析とその法医学的応用
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16H07133
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
川口 敬士 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (60781284)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 法医病理学 / 虐待 / 胸腺 / ストレス / ケモカイン / CCR5 |
Outline of Annual Research Achievements |
ストレスによる胸腺萎縮の分子メカニズムを解明するために,実験動物として8から10週齢の雄C57BL/6野生型マウス及びCCR5遺伝子欠損マウスを用い,ストレスモデルとして,マウスを空気穴を開けたファルコンチューブ(50ml)内に無麻酔下で入れ,1時間拘束する処置を3日間(拘束→自由→拘束→自由→拘束)継続した. 1.胸腺重量について検討したところ,拘束ストレスによって野生型マウスでは,胸腺重量が約25%程度まで減少していた.しかしながら,同様の拘束ストレス後のCCR5遺伝子欠損マウスにおける胸腺重量の減少は約50%程度までであり,明らかにストレス誘発胸腺萎縮が抑制されていた. 2.副腎重量について,は野生型マウスでは,ストレス拘束後に約20%程度増加していたが,CCR5遺伝子欠損マウスでは拘束ストレス前と比較して有意な重量増加は認められなかった.すなわち,ストレスによる副腎腫大が抑制されていた. 3.胸腺細胞がストレスによりアポトーシスが誘導されることから,各マウスにおける胸腺細胞のアポトーシスを検討したところ,野生型マウスではアポトーシス細胞が著明に増加していたが,CCR5遺伝子欠損マウスにおけるアポトーシス細胞数は野生型マウスの25%程度しか認められなかった. 小括:T細胞に発現していることが知られているケモカインレセプターであるCCR5の遺伝子欠損マウスを用いて拘束ストレスによる胸腺萎縮における病態生理学的役割を検討したところ,CCR5遺伝子欠損マウスでは拘束ストレスによる胸腺萎縮が野生型マウスと比較して有意に抑制されていた.そのメカニズムの1つとして胸腺細胞のアポトーシスの減少の関与が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度はこれまで確立していたマウスにおける拘束ストレスによる胸腺萎縮モデルの再現性を確認し,それによって,本研究において拘束ストレスによる胸腺萎縮モデルを用いることの妥当性を再確認することができた. 次に,拘束ストレスによる胸腺萎縮における分子メカニズムにおけるケモカインの病態生理学的役割を検討するためにT細胞に発現していることが知られているケモカインレセプターの1つであるCCR5の遺伝子欠損マウスを用いて,拘束ストレスによる胸腺萎縮を検討することができた.その結果として,CCR5遺伝子欠損マウスでは拘束ストレスによる胸腺萎縮が野生型マウスと比較して有意に抑制されていた.また,胸腺細胞のアポトーシスの減少がCCR5遺伝子欠損マウスにおいて観察された.以上のことから,ストレス誘発の胸腺萎縮において,CCR5介したケモカインシグナルの関与が明らかにされたことはが,概ね順調に進展していると考えた理由である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は拘束ストレス誘発胸腺萎縮において,ケモカインレセプターの1つであるCCR5を介したシグナルが関与していることを見出すことができた.しかしながら,その詳細な分子メカニズムについて検討する予定である. 1.CCR5,CCR5のリガンドケモカインとしてCC chemokine ligand 3 (CCL3), CCL4およびCCL5の3種類が存在することから,最も胸腺萎縮に関与するケモカインの機能と動態を解析しする予定である.具体的には拘束ストレス後の血中ケモカインレベル(CCL3, CCL4およびCCL5)を解析する.次いで,胸腺組織におけるCCL3, CCL4およびCCL5遺伝子発現を検討する.さらに,これまで,胸腺萎縮に関与することが報告されているサイトカイン(IL-6, oncostatin M,レプチン等)の血中レベルを野生型マウスとCCR5遺伝子欠損マウスにおいて検討する. 2.ストレスによって副腎皮質ホルモン(コーチゾル)が増加することが知られている.そこで,野生型マウスとCCR5遺伝子欠損マウスにおいて,拘束ストレス後の血中副腎皮質ホルモン(コーチゾル)を定量して,CCR5を介したシグナルの副腎皮質ホルモン(コーチゾル)に対する影響を検討する. 3.実際の法医剖検事例において.虐待例・非虐待例を問わず胸腺・血清を採取してCCR5およびそのリガンドのCCL3,CCL4およびCCL5について,遺伝子およびタンパクレベルで検索し,虐待の指標となる可能性についても検討する. 4.CCR5以外のケモカインレセプターについても遺伝子欠損マウスを用いて可能な範囲で検討する.
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Remarks |
本研究は平成28年4月から,まず実験モデルの再現性を確認するとともに,遺伝子欠損マウスの繁殖を含めて開始したものである.したがって,平成28年度内に学会発表・論文作成は時間的に困難であった.ただし,平成29年度は既に少なくとも1回は学会発表が可能な状況である.
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