2016 Fiscal Year Annual Research Report
女性の収入獲得が世帯内意思決定に与える影響:途上国の女性対象収入向上活動の再考
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16H07155
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Research Institution | Bunkyo Gakuin University |
Principal Investigator |
甲斐田 きよみ 文京学院大学, 外国語学部, 助教 (20783608)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ジェンダー / 世帯内意思決定 / 東北タイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、結婚後に妻方居住し、妻が実家とのネットワークを強く持ち、土地を相続する伝統がある東北タイの農村において、女性が収入を獲得することが世帯内の意思決定にどのように影響するか明らかにすることである。世帯内意思決定に関する先行研究は南アジアやアフリカの父系社会の事例が多く、世帯内で女性の交渉力が向上する要因として、女性の経済力の向上とともに頼れる実家や親戚のネットワークがあること、土地や家屋を所有していること等が挙げられてきた。結婚後に妻方の実家との結びつきが強く、女性が土地や家屋を相続できる社会では、女性の交渉力を向上させる要因を女性は結婚時に既に取得していると考えられる。 平成28年度はタイ東北地方において、家族関係、経済活動とジェンダー規範の実践と認識について、2度の現地調査を実施した。 自家消費及び販売目的で稲作、キャッサバやサトウキビ、ゴム等の商品作物の栽培で生計を確保する農家が多く、世帯員の移民労働による送金も重要な現金収入源となっている。結婚後に妻の両親の家に夫妻で居住し、子どもは妻の両親に預け、夫妻で又は夫のみ移民労働に出かけ、貯蓄ができれば妻の両親の近隣に家を建て独立する。子どもが成人すれば同様に移民労働に出かけ、夫妻は村で孫の面倒をみながら子どもからの送金で生活していく。現在では、婚姻届けを出さない村人が多く、結婚・離婚・再婚を容易に行い未婚者への結婚を勧める圧力もなく、性別役割分業に関わるジェンダー規範は弱まっていると認識されている。夫妻で収入は一緒にし、世帯員からの送金も妻が管理している。女性たちは10代・20代で移民労働に従事し、村では得られない額の現金を獲得し世帯に貢献する世帯員となることを経験した。育児の役割を母親に、母親にとっては経済活動を子どもに分担してもらうい、ライフサイクルを通して生計の確保を可能にしている事が推察できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初ラオスの最大民族であるラオ人を調査対象とする予定だったが、2016年8月に個人研究費によりラオスの政府機関や国立大学を訪問したところ、先方は少数民族に関する研究を希望しており調査の許可を得ることが難しいため、ラオ人同様に母系社会の伝統があるタイ東北地方に調査対象を変更した。新たな調査対象地の選定に時間を要したが、平成28年度に2度の現地調査を実施し、必要なデータを得ることができた。 2016年12月~2017年1月にタイ東北部ウドンタニ県クチャップ郡の3村で、1990代後半に一村一品運動の織物製品を製作・販売するグループ活動を行っていた女性を中心に、現在も何らかの収入を得る活動をしている女性18名を対象に個別インタビュー調査、2017年2月~3月には対象の女性及び同居する夫がいる場合には夫に対しても質問票(タイ語による自由記述)による調査を実施した。1年目に予定していた必要なデータは収集できた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はタイ東北部の母系社会における女性の経済活動、ジェンダー役割と規範、世帯内での意思決定過程について、平成28年度に引き続き現地調査を実施する。平成28年度に実施した2度の現地調査で得られたデータから、研究の途中経過をまとめ、6月に国際開発学会での発表を予定している。平成29年度の現地調査は可能な限り年度の前半に行い、後半はデータの分析と研究成果のまとめを行っていく。今年度の現地調査は、何らかの経済活動をしている女性、女性が配偶者と同居している場合はその配偶者、または他の世帯員(両親、子ども等)に対しても調査を行い、女性の経済活動に対する認識、世帯員の経済活動と世帯への貢献認識、県外や海外への移民労働に多くの人が従事する状況で、経済活動、農業、家事、育児、村でのコミュニ日活動といった役割を、どのように分担し、そのような活動を行うことが、世帯員からどのように認識され、世帯内意思決定にどのように影響しているのか聞き取り調査を行う。 本研究は、女性の経済活動を支援する開発協力事業を行う際に、女性が自ら収入を得ることが、世帯内の意思決定にどう影響するかという点に対して有益な示唆を提示できるよう、タイ東北部の事例を基に研究成果をまとめていく。
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