2016 Fiscal Year Annual Research Report
新出土資料から見た上古中国語声母研究ー以母・preinitial *s-を中心に
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16H07203
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
野原 将揮 成蹊大学, 法学部, 講師 (80728056)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 上古音 / 以母 / Preinitial *s- / 「西」 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は以下の点について研究を進めた: (1)上古中国語以母に関する基礎的研究 先行研究に拠ると、中古音以母は上古の数種の声母(音節初頭子音)に由来することが明らかとなっている。そのうち、いわゆるL-typeに由来する以母の諧声系列とT-typeの諧声系列には明らかに異なる分布が見られる。本年度はこのT-typeとL-typeについて再検討を加えた(「再論上古音T類声母與L類声母」)。 (2)Preinitial *s-についてー「西」を例にー 本研究のもう一つのテーマであるPreinitial *s-について検討を加えた。本年度は特に「西」を例に研究を進めた。概略は以下の通り:従来の研究では、「西」の声母は*s-と再構されるのが主流であったが、本研究では出土資料を用いることでこれを*sn-と再構した。再構の際に有力な論拠として用いたのが出土資料中に見える「訊」である。「訊」は「人」を構成要素として有しており、これが声符として機能している蓋然性が高いため、本研究では「訊」を*sninsと再構した。さらに『説文解字』の「訊」を見てみると、「言+西」に作る古文が見え、当該字については「西」が声符として機能している可能性が高い。これにより「西」の声母についても*sn-を再構した。 Baxter and Sagart (2014) では比較言語学的手法の導入が改めて推奨されているが、「西」については中国語諸方言や親族関係にあるとされる言語の借用語に目を向けても、*s-と再構する以外の論拠は見いだせない。しかしながら近年陸続と出土する生の資料を研究対象とすることでより確度の高い再構をすることが可能である。「西」の字音再構はまさにこれに当たるものと考えられる。「西」については本研究以前に学会発表を行ったが、今年度、加筆・修正し論文として投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は平成28年度下半期からはじまったため、多くは進展しなかったが概ね順調と言って良い。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の二点について研究をすすめる予定である: (1)以母についての成果をまとめる 平成28年度の研究を踏まえ、平成29年度は以母全体について検討を加える予定である。その中でも特に口蓋垂音あるいは軟口蓋音と密接に関連する以母に関して検討を加えたい。また数種の声母に由来する中古音以母はある段階で完全に合流することになるはずであるが、その具体的な時期についても研究を進めたい。また同時に個別の語の上古音再構に取り組む。 (2)「西」以外のPreinitial *s-について検討を加える Preinitial *s-を持つとされる語は数多くあるため、今後はさらに多くの語について検討を加えたい。 いずれも出土資料に見える通仮(当て字の用法)を中心に扱う予定である。
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