2016 Fiscal Year Annual Research Report
放射光イメージングを利用した食品冷凍貯蔵時に進行するタンパク質凝集形成機構の解明
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16H07248
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小林 りか 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (50780326)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 食品冷凍 / 低温貯蔵 / 放射光X線CT / 凍結濃縮層 / 凝集体形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
冷凍食品の解凍復元性を悪化させる凍結濃縮相でのタンパク質凝集構造の形成は、主に凍結した後の貯蔵過程で進行する。多くの凍結過程は非平衡状態のまま進行するため、凍結速度が急速であるほど凍結濃縮が進行せず、その後の貯蔵過程での凝集構造の形成が抑制されると考えられる。本研究ではこの仮説を確かめることを目指し、1. 放射光単色X線CTを用いて、凍結濃縮層の微少な密度変化を定量する手法を確立し、2. 凍結条件および糖類といった添加物を変えた場合の、貯蔵過程で進行する凝集体の形成挙動を先の手法で定量評価する。これらの結果を総合し、タンパク質系食品の貯蔵過程で進行する凝集体形成挙動のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 本年度(H28年度)は大豆タンパク質を主成分とするゲルを用いて、低温貯蔵をモデルとした加速劣化試験を行い、貯蔵中の凝集体の形成挙動を放射光X線Computed Tomographyによって得られるX線吸収係数の変化から観察を試みた。その結果、緩慢凍結試料では貯蔵を経るほど、固形部分由来のX線吸収係数が高密度側にシフトしており、貯蔵過程における凝集体形成による凍結濃縮層の微少な密度変化を定量できたと考えられる。しかしながら、急速凍結した試料では、凍結濃縮層(固形部分)のX線吸収係数の分布は、試料間で大きく異なり、貯蔵過程で進行する緒変化の影響よりも、凍結過程の影響を大きく受ける傾向にあった。それゆえ、本年度の結果では、凍結条件の違いによる凝集体形成挙動の把握に対しては、明確な結論が得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は本年度までに、大豆タンパク質を主成分とするゲルについて低温貯蔵をモデルとした加速劣化試験を行い、貯蔵中の凝集体の形成挙動を、凍結乾燥を施した試料に対して、放射光X線Computed Tomographyによって得られるX線吸収係数の変化から観察を試みた。その結果、慢凍結試料では貯蔵を経るほど、固形部分由来のX線吸収係数が高密度側にシフトしており、貯蔵過程における凝集体形成に起因する凍結濃縮層の微少な密度変化を定量でき、本年度目標としていた、放射光X線CTを用いた凍結濃縮層の評価手法の確立を達成したと考えられる。加えて、本年度は貯蔵過程における経時変化を追ったが、凍結濃縮層における密度分布のドラスティックな変化が、予測していたよりも貯蔵後期に生ずることが分かり、凍結直後の品質が、貯蔵をある一定期間経ることで急激に低下する、一つの科学的な証拠を得たと考えられる。 しかしながら、凍結条件に違いによる凝集体の形成共同の把握に関しては、より厳密に凍結速度をコントロールし、詳細に検討する必要があることが明らかとなった。この点に関しては、次年度で詳細な検討を行うこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、次のように大きく分けて2つの実験を計画している。一つ目は、平成28年度の検討で不十分であった、凍結速度の影響に関して、厳密に凍結速度を制御した試料を用いて貯蔵試験を行い、凝集体形成挙動の詳細な観察を行う。具体的には、凍結時の伝熱方向を一方向だけに限定させて凍結を行う方法(一次元凍結法)と、過冷却を利用し、氷核の発生頻度を変え、生成する氷結晶のサイズをある程度制御する方法(過冷却凍結法)を併用し、凍結条件の異なる試料を作成し、凍結条件の影響を検討する。 二つ目は、冷凍貯蔵中に進行するタンパク質の凝集挙動に対する、食品試料の糖濃度および糖の種類の影響を検討し、理論的裏付けを行う。糖の添加によって冷凍時のタンパク質の変性や凝集の進行が抑制されることはよく知られている。これは糖の濃度や種類によって、ガラス転移温度が変化し、濃縮場の反応性が変化するためと理解されている。他方、糖の添加によってガラス転移温度が変化すると、食品内の局所的な凍結濃縮の分布形態も変化することが予想される。この様な背景から平成29年度は、食品冷凍貯蔵過程での凝集体形成進行挙動に糖添加が及ぼす影響を検討する。 平成29年度は放射光X線CT実験を1回(8時間×3シフト)予定している。上記の要素(凍結条件および糖の添加量および種類)が、最も顕著に凝集体形成挙動に影響する条件を実験室での実験で明らかにし、それらの試料中での凝集体の形成挙動を、平成28年度に確立した放射光X線CTを用いた、X線吸収係数による定量評価手法を用いて評価を行う。
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Research Products
(1 results)