2016 Fiscal Year Annual Research Report
地理的単為生殖昆虫類における両性生殖系統と単為生殖系統の共存メカニズム
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16H07263
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
関根 一希 立正大学, 地球環境科学部, 助教 (10779698)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 進化 / 繁殖生態 / 地理的単為生殖 / 遺伝子 / 分子系統解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、進化生物学において永く議論されてきた課題「両性生殖 vs. 単為生殖」に対して、新たな見解を投げかける研究である。地理的単為生殖昆虫のオオシロカゲロウはしばしば大発生を引き起こす河川棲のカゲロウ類である。これらの地域個体群のほとんどは、両性生殖系統から成る両性個体群あるいは単為生殖系統から成る雌性個体群のいずれかのタイプである。しかし、一部の個体群では、同一河川水系に両性生殖系統と単為生殖系統の両系統が混在することが明らかになってきた。 これまでに繁殖・生態学・遺伝学的データを蓄積してきたが、遺伝子解析 (ミトコンドリアCOI領域) により、両性生殖と単為生殖のどちらのタイプの系統なのかを識別することが可能となった。本研究では、福島県・阿武隈川および埼玉県・荒川の2つの河川水系において、両系統が混在することを明らかにした。また、これらの流程分布は、阿武隈川では下流に行くほど、単為生殖系統の割合が高くなるが (最下流調査地点の福島市でほぼ100%単為生殖系統)、一方、荒川では逆のパターンで、上流側に行くほど単為生殖系統の割合が高くなった。1990年代初めの福島市・阿武隈川個体群の性比調査では両性個体群であった (Watanabe et al., 1998) にも関わらず、本調査では、個体群の雌性化が生じていたことから、近年、単為生殖系統の個体数が増加しており、現在は過渡的状態にある可能性が高い。自然環境下において、リアルタイムで生じている両性生殖 vs. 単為生殖の構図を明らかにすることができてきている状態にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り、阿武隈川および荒川の両河川水系において、幼生を対象とした性比調査を実施し、流程ごとの性比の違いを明らかにできた。また、ミトコンドリアDNAのCOI領域を対象とした遺伝子解析により両性生殖系統-単為生殖系統の判別を行ない、流程ごとの系統頻度の違いを明らかにできている。 オオシロカゲロウは9月上・中旬の夕暮れ時, 1-2時間の短い間に羽化をする。羽化の同調は極めて強く,成虫寿命は数十分から2時間程度と非常に短い。昨年度の調査時期には大雨が降ってしまい、採集された羽化個体数が少なかった。羽化時期および羽化時間における両性生殖系統と単為生殖系統間の違いがありそうな傾向は認められたものの、やや不十分なサンプルサイズである。引き続き、次年度も調査データをとる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
羽化個体を対象とした調査を次年度の羽化シーズンにも継続して行ない、昨年度のデータを補完する。加えて、両性生殖系統-単為生殖系統個体の交尾行動の比較調査を実施し、両性生殖オス個体がいる環境下で、単為生殖メス個体が交尾行動をとるのかどうかを明らかにする。 オオシロカゲロウの交尾行動は、河川上で飛翔しながら行なわれ、交尾にかかる時間もわずか数秒ほどである。時には大量羽化となり、吹雪のような光景にも到る体長20 mmにも満たないカゲロウの交尾行動を、夜間、河川上で直接観察・調査することは、ほぼ不可能に等しい。しかしながら、一般的にカゲロウ類のメス個体は貯精嚢をもたず、交尾後の精子は卵母細胞がある輸卵管へ直接注入されて、卵門 (卵殻上にある精子の侵入口) へ入り込んで受精する。予備調査において、DAPI染色・蛍光顕微鏡観察および走査型電子顕微鏡観察により卵門内に入り込む精子を確認する手法を既に確立している。交尾後か未交尾かを識別することから、同じ環境下にいる単為生殖系統-両性生殖系統個体の交尾行動を明らかにする。
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