2016 Fiscal Year Annual Research Report
Manufacturing Techniques and Producing Areas of Stone Vessels in the Early Dynastic Egypt
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16H07272
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
竹野内 恵太 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (30778684)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | エジプト / 初期王朝時代 / 石製容器 / 製作技法 / 製作プロセス / 穿孔・研磨技法 / 大量生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は第一にエジプト初期王朝時代の石製容器の製作技法復元を目的としている。また、各遺跡出土の石製容器を比較検討することで、これまで不明瞭であった生産地を同定し、当時の大量生産の実態解明を目指す。その足がかりとして、本年度では、フランス考古学研究所にてアブ・ロアシュ遺跡M墓地出土の石製容器の実見調査を実施し、合計87点の図面化・写真撮影・観察を行った。観察と分析の視点となったのは、(1)円筒形壺と鉢・皿類の基本的な製作プロセス、(2)石材(トラバーチン・石灰岩・泥岩・凝灰岩)ごとの穿孔・研磨方法、(3)容器サイズに応じた穿孔・研磨方法、である。 (1)については、器種ごとの製作技法の内容と運用された道具の同定、製作プロセスを明らかにするため、容器内外面ともに口縁部・胴部・底部の各部位で穿孔・研磨痕の幅や方向、位置などをパターン化した。(2)および(3)については、各石材でそれぞれ硬度と性質が異なるため、石材ごとの製作技法の共通項と差違を観察した。また、口径や器高、器壁の厚さといったサイズとプロポーションを指標として、同様に穿孔・研磨痕をパターン化した。 その結果、これまで一様の製作プロセスと使用道具のみが提示されてきた状況で、器種や石材、容器サイズに応じて多様な製作技法が運用されていたことが判明した。また、穿孔・研磨痕の明瞭性、口唇部の厚さの均一性、岩石の葉理部分の研磨状態の3点が作りの「粗さ」の指標として考えることができる。これらは他遺跡出土容器との比較の際に有効な視点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目的であったアブ・ロアシュ遺跡出土の石製容器の実見調査が滞りなく実施できたことが第一である。また今回の調査によって、道具の運用方法を含む製作技法復元のための基礎をつくり、他遺跡出土のものと比較検討するための視点と指標を得ることができた。穿孔・研磨の中途段階の資料も存在したため、製作プロセスの復元についても予想以上に考察が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度でもアブ・ロアシュ遺跡出土の資料の調査を継続する。その際、資料群の中にわずかに混じっていた穿孔・研磨が不十分な容器をとりわけ対象とする。そのような資料は製作プロセスを復元するに当たって不可欠であるため、こうした製作途中の未成品も重点的に観察する。 加えて、当初予定していたカイロ博物館所蔵の北サッカラ遺跡出土の資料も新たに調査を開始する。また、京都大学総合博物館所蔵の石製容器も調査可能であることが判明したため、こちらの資料も併せて実見調査を行う。当該博物館には、第2王朝時代のバダリ遺跡とカウ遺跡から出土した石製容器が所蔵されている。両遺跡は、北サッカラ遺跡とアブ・ロアシュ遺跡といった当時の首都圏から離れた地方墓地であるため、生産地を解明するためには比較資料として極めて重要である。 以上のように複数遺跡で石製容器を分析することで、基本的な製作プロセスを確立する。さらに、製作技法・プロセス・道具といった石製容器製作全体の技術的様相を遺跡間で比較検討し、生産地の解明へ踏み込む。本年度中に国内外にて研究成果を発信する。
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