2016 Fiscal Year Annual Research Report
家制度の情緒的関係に関する歴史社会学研究:1880~1950年代の家族論を中心に
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16H07283
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本多 真隆 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (60782290)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 近代家族 / 家 / 情緒性 / 近代日本 / 家族変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の先進諸国においては、これまで自明視されてきた「近代家族」の情緒的関係のあり方が大きく揺らいでいる。しかし日本では「近代家族」の規範が未だに根強く、「日本型近代家族」の情緒的関係の特性を可視化する研究が求められている。本研究は、日本の伝統的家族である「家」制度の情緒的関係に着目し、その規範の発生及び変遷と、戦後に一般化する「日本型近代家族」に与えた影響を明らかにすることで、日本家族の情緒的関係に関する基礎的視角を確立することを目的とする。この目的の達成のため、家制度の形成に大きな影響を与えた法制史と近代日本の家族変動の観点を導入し(我妻 1948; 森岡 1993)、以下の三つの時期の調査を有機的に関連づけて実施する。 ①[調査1]民法典論争が起き、法的な家制度が形成され始めた1880~1890年代において、家制度の情緒的関係がどのように規範化されたかを明らかにする。②[調査2]産業化と都市化が進行し、農村部の家制度が揺らいだ1910~1920年代において、[調査1]でみた家制度の情緒的関係の規範がどのように再編成されたかを明らかにする。③[調査3]民法改正を経て家制度の存続が問題化した1945~1950年代において、家制度の情緒的関係の規範が戦後の家族規範とどのように接続したかを明らかにする。 平成28年度は、[調査1][調査2]を中心に行い、[調査3]についても予備調査を行った。 以上の作業は、戦前期から戦後初期における家制度の情緒的関係に関する規範の発生および変遷を追跡するものであり、その規範の発生から「日本型近代家族」の形成を問う本研究の重要な土台となるものである。国際的にも西欧中心の近代化モデルが見直され、非西欧圏の家族の近代化に関する研究が蓄積されているが、本研究もまたその動向に連なるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①[調査1]の資料の収集にあたっては、星野通編『民法典論争資料集』、老川寛監修『家族研究論文資料集成 明治大正昭和前期篇』を用い、法的な家制度とその道徳の形成、特に家制度の情緒的関係の規範の形成を主導した代表的な論者と新聞雑誌等のメディアを特定する。続いて、以上の作業で特定した論者と新聞雑誌の名前を軸に、国会図書館を活用して、先にあげた資料集にはない本研究に関連する文献を抽出した。以上の資料を、(1)家制度の情緒的関係がどのようなイメージやロジックのもとに語られていたのか、(2)またその議論において家制度の情緒的関係は「近代家族」的な情緒的関係とどのように重なり合い、分別されていたのか、という観点から分析を行った。 ②[調査2]の収集にあたっては、[調査1]と同様の先行研究と資料集のほか、貝塚茂樹監修『道徳教育論争史 第Ⅱ期』を加え、家制度の道徳的強化、特に情緒的関係の議論を主導した代表的な論者とメディアを特定し、国会図書館等を活用して、網羅的に関連する議論を収集した。以上の資料を、[調査1]で得た家制度の情緒的関係に関する規範がどのように変化したのかという観点から分析を行った。そして、論者の連続性や世代交代、時代背景の変化を踏まえ、家制度の情緒的関係の規範の再編成を明らかにする。 ③[調査3]では、[調査1][調査2]で得られた家制度の情緒的関係の規範が戦後の家族規範とどのように接続したかを明らかにすることを目的に、1945~1950年代になされた家制度の保存、改良についての議論を対象として、言説分析を行った。①の成果については、論文を投稿中である。②の成果については、平成29年度6月に学会報告を行う予定である。③については、平成28年度に1回の学会報告を行い、学会誌の特集論文の掲載が決定されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、[調査3]と全体の取りまとめを中心に行う。 ①[調査3]の収集にあたっては、戦後の民法改正及び家族規範を扱った先行研究と、家族法に関する会議録が収録された堀内節『続家事審判制度の研究』、1945~60年代の代表的な家族論を網羅した大田武男・加藤秀俊・井上忠司編『家族問題文献集成』、湯沢雍彦監修『「家族・婚姻」研究文献選集(戦後編)』を活用する。以上の文献を用いて、家制度の保存、改良についての言論を主導した論者とメディアを特定し、国会図書館で網羅的に関連する議論を収集する。国会図書館未所蔵の雑誌等については、蒐集家との交渉から文献をコピーする。以上の資料を、家制度の保存、改良を目指した論者が、戦前と戦後をどのようなロジックを用いて接続させようとしたかという観点から分析を行う。分析にあたっては、ひとくちに家制度の保存、改良といっても、その立場は戦前型の家制度の復活や、慣習としての家制度の保存など立場は多様であるため、各論者の主張の種差性に注意する。そしてそれらの議論が、[調査1][調査2]で得られた家制度の情緒的関係の規範をどのように戦後の家族規範に接続し、影響を与えたかを明らかにする。 ②成果のとりまとめと最終報告書の執筆 成果のとりまとめは、各調査の知見が有機的に関連づけられるよう、必要に応じて資料を補足しながら行い、その上で最終報告書を執筆する。
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Research Products
(4 results)