2016 Fiscal Year Annual Research Report
文化・語彙史料としての桃源瑞仙『史記抄』―書名・人名及びことわざ・慣用句
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16H07324
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
山中 延之 京都女子大学, 文学部, 講師 (00782591)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 室町時代語 / 抄物 / 桃源瑞仙 / 史記抄 / 人名 / 書名 / ことわざ / 慣用句 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、桃源瑞仙『史記抄』の人名・書名索引を作成を進めた。特に、日本の固有名詞(人名・神名・書名・地名等)採録を正確に行うよう作業をおこなった。中国の人名・書名を暫定的に除いたのは、『史記抄』に予想以上に他の典籍からの引用が多かったためである。日本の固有名詞については大部分の採録を終えたので、残る中国の人名・書名の採集作業を行っている。 なお、固有名詞採集の過程において、今年度の目標であることわざ・慣用句の収集も平行しておこなっている。 上記の索引作成の基礎、また発展的作業として以下の2件の研究発表を行った。 ①抄物の全体像を把握する必要があるため、その途中報告を兼ねて、『黄氏口義』研究会において「抄物概説」をおこなった。特に意を用いたのが抄物年表である。抄物には略年表はあっても網羅的な年表が作られたことはない。そのため、今回の試みは有用なものであったと思う。ただし、遺漏も多く、今後一層の増補が必要である。 ②『史記抄』読解の途上で興味を持った、室町時代の過去・完了の助動詞について研究発表をおこなった。古代語にあったキ・ケリ・ツ・ヌ・タリ・リ等の過去・完了の助動詞は、現代までにタに収斂してしまったが、その収斂の時期はいつなのか、従来の研究では十分には明らかになっていない。その鍵を解く手掛かりが抄物にあると考えられる。抄物は、タを基調としながらも、タシ・タケルのような複合形で古代語の助動詞を残しているのである。本発表はタシに論点を絞り、15世紀後半の『史記抄』では100例を超えるタシがあるが、16世紀の『中華若木詩抄』などになると、その数は極めて僅少となることを報告した。これは、タシ・タケルの衰退とみられる。本発表は、抄物の相互比較による語誌の一例として、改稿のうえ雑誌に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」に報告したとおり、現在は日本の固有名詞をほぼ採録し終えたところであるが、『史記抄』に現れる人名・書名全般の採録は完了していない。また、日本の固有名詞についても、礎稿はある程度完成したが校正が完了していない。 以前、予備的に『史記抄』を通覧した際には、固有名詞の種類を表す符号(朱引き)が丹念に付されており、これがあれば人名・書名の採録は容易であると予想していた。ところが、朱引きの無い部分が意外に多かった。また、日本の固有名詞にだけ朱引きが無い箇所も散見された。朱引きの無い部分については、一字一句文脈を確かめつつ読解しなければ、人名・書名の区別はできない。また、すべての固有名詞にもれなく朱引きがあるわけでも無い。つまり、見通しが甘かったことと並んで、丹念に本文を読まざるを得なかったことが作業遅延の大きな原因である(しかし、ここで本文を丁寧に読んだことで、最終年度の作業をより早くかつ正確に行えるようになったはずである)。 また、2016年12月と2017年1月とに研究発表を行ったことも索引作りを遅らせる原因となった。しかし、この発表の準備を行う過程で、従来とは異なる視点から『史記抄』を読むことができ、その結果本文内容の理解が以前と比較して格段に向上した。この文脈知識もまた、本年度の作業を加速させてくれると思う。 したがって、前年度の遅れの原因は、いずれも本年度の研究をいっそう速めてくれると思われる。研究期間の2年間全体で進捗を考えた時、遅れは生じないものと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、日本の固有名詞の索引を完成させる。すでに大部分の第一次採集は終えたので、今後は校正も含めた確認作業を実施する予定である。ついで、中国の人名・書名索引を増補し、『史記抄』の人名・書名全体の索引を完成させる。日本の固有名詞のみであっても、一度巻末まで採録作業をおこなうことによって、今年度中に全人名・書名を収集することは十分に可能であると思われる。中国の人名・書名が膨大に登場するとは言え、頻繁に登場する固有名詞の種類は限られており(頻用される注釈書とその著者等がそれに該当する)、また、あらゆる箇所に大量に登場するわけではない。一定の固有名詞が必要に応じて用いられているのである。そこで、コンピュータに単語登録を行う等の手段によって作業を短縮することが可能である。また、一度素稿を作成した経験があることによって、頻出固有名詞とその箇所はある程度記憶することができたため、この点からも今後はスムーズに入力作業を進めることができると思われる。 その後、ことわざ・慣用句索引の完成を目指す。ことわざ・慣用句は、書名・人名を採集する際にある程度ピックアップしてある。また、採録に際して必要となる背景・文脈に関する知識を昨年度の作業を通じて得ることができた。この知識は、本年度の作業を進める上できわめて有用である。前年度の作業に時間が掛かった分内容の理解が深まった点を活用すれば、その遅れは今年度のうちに十分に取り戻せると思われる。 以上2件の索引を作成し、冊子等の形式で公開する予定である。必要に応じて、索引を利用するにあたって必要な知識を『史記抄』概説等の形で併載することも考えている。
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Research Products
(2 results)