2016 Fiscal Year Annual Research Report
脂肪組織の発生遺伝子に着目した運動による脂肪組織リモデリング機構の解明
Project/Area Number |
16H07329
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
加藤 久詞 同志社大学, 研究開発推進機構, 助手 (30780275)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 発生遺伝子 / 運動トレーニング / 皮下脂肪組織 / 内蔵脂肪組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満に伴う代謝・内分泌異常の発生頻度や重症度は体脂肪蓄積量(肥満度)よりもむしろ蓄積部位(体脂肪分布)と密接に関係しており,各部位における脂肪組織の生物学的特徴の違いに注目が集まっている。近年,皮下脂肪組織(scWAT)と内臓脂肪組織(vWAT)に発現する「発生遺伝子」の発現パターンの違いが,両組織間の生理機能の差を生み出し,体脂肪分布を決定することが明らかになってきた。また運動は副作用のない代謝亢進薬として,肥満症治療に効果的な方法の 1 つとして存在感を強めている。そこで本研究は,運動が肥満による脂肪細胞の負の制御を抑制するだけでなく「健康な脂肪細胞への分化・形質転換」を可能にすることを実証し, 発生生物学的エビデンスを基盤とした新しい運動療法を提案することを目的とする。 本研究では,脂肪組織の発生遺伝子に着目し,運動トレーニング(TR)がscWAT・vWATの分化・形質転換に及ぼす影響を明らかにする。実際の肥満症を想定しているため遺伝的肥満モデル動物は採用せず,高脂肪食誘発性肥満ラットを用いて検討する。 平成28年度(1年目)は,Wistar系雄性ラットに60%の高脂肪飼料を摂取させて肥満ラットを作成し,TRによる体脂肪量減少がscWAT・vWATの発生遺伝子,分化・形質転換に及ぼす影響を検証した。TRは回転ケージを用いた自発的走運動モデルとトレッドミルを用いた強制走運動モデルの2種類を採用した。げっ歯類の脂肪細胞は,1日に約0.6%入れ替わると報告(PLoS ONE.6:e17637,2011)があり,本研究では発生遺伝子に着目するため細胞の入れ替わりを考慮した長期間のTRの影響を検証することが望ましく,TR期間は理論的に全ての脂肪細胞が入れ替わる「6ヶ月」に設定した。1年目は研究期間が半年間であるため,肥満ラットの作成と6ヶ月間のTR介入に費やした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度(1年目)の主な計画は,60%の高脂肪飼料を摂取による肥満ラットの作成および6ヶ月間の運動トレーニング介入である。すべて計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度(2年目)は,解析をメインに実施する。6ヶ月間の運動トレーニング(TR)を施したラットは最終トレーニング終了36時間後に,皮下脂肪組織および内蔵脂肪組織,褐色脂肪細胞を摘出する。摘出した各脂肪組織はコラゲナーゼ処理にて成熟脂肪細胞と間質血管細胞群(SVF)に分画する。SVFは継代培養し,脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)を回収し,解析対象とする。サンプルはmRNAおよびタンパク質発現解析用に適切な処理を施す,発生遺伝子(Homeobox,T-boxなど)を中心に,分化シグナル(Bone morphogenetic protein,Wntなど)や炎症,アディポカインの変化など脂肪組織リモデリングに関する項目を測定し,TRの影響を明らかにする。TRによって変化した発生遺伝子は,脂肪組織リモデリングに関与している可能性が高い。そこでTRによって変化した発生遺伝子を運動療法の新規ターゲット分子の候補とし,in vitroで機能的役割を検証する。候補ターゲット分子のプラスミドベクターを構築した過剰発現モデル,またsiRNAを用いた発現抑制モデルを作成し,機能的役割を明らかにする。以上より,発生生物学的エビデンスを基盤とした新しい運動療法を提案する。
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