2016 Fiscal Year Annual Research Report
近世~近代庶民教化テキストから問う東アジア世界と日本
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16H07337
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
殷 暁星 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (30778965)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 聖諭広訓 / 六諭衍義 / 郷約 / 明清聖諭 / 近世庶民教化 / 東アジア文化交渉 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は主に次の面から研究を進めてきた。 1.清朝中国における聖諭宣講との比較研究。阿部泰記氏の中国における聖諭宣講に関する最新の研究成果を踏まえ、近世日本と清朝における聖諭の伝播について比較研究を行った。庶民教化研究の末端に連なる立場から、中国史学界から啓発を受けた新たな研究視野を提示した。 2.書物・絵画の視点から明清聖諭関係書の再構築。教訓物の挿絵の活用を通して、日本の庶民教化における明清聖諭関係書の受容について検討した。清朝の「像解」と近世日本の挿絵の二つの図像情報の特徴を比較して、「像解」は日本の民間知識人に模倣されたが、その結果、本来の文字に依存しない「宣布」という形態を失い、逆に出版文化と結託していくことになったことを明らかにした。また、それは近代日本教育における図像の活用ともつながったことを指摘した。その成果は関西地方留学生学術交流会などで発表した。 3.明清聖諭の歌謡と心学に関する研究。従来の教化歌謡研究で疎外/無視されてきた中国伝来の教化歌謡を対象に、近世に流行した教訓科往来物『六諭衍義』の詩篇を中心に、その近世日本における伝播と活用について検討した。特に石門心学の道歌との関連性を明確にし、漢詩体教化歌謡が近世日本に普及していく過程において、徐々にその実効性を失い、新たな価値を付加されたことを明確にした。その成果の一部は四川大学で発表した。 4.近代への転換期における近世庶民教化思想の再解釈について。明治期における初等教科書としての明清聖諭の再版を整理し、ここに現れた出版種類の減少、「教育令」「教育勅語」に沿わせて明清聖諭を解釈する動向に注目して、明清聖諭が近代教育システムの麾下に納められた過程を明かにした。また、啓蒙知識人による清聖諭価値の再発見などを分析して、教育勅語の成立と明清聖諭の近代的受容と葛藤を考察してきた。その成果を論文にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度は、学会報告3本、うち、国内学会1本「書物・語り・絵画の道徳教化――明清聖諭から明治日本教科書へ」(〔大阪・とよなか国際交流センター〕関西地方留学生学術交流会)、国際会議2本「日本近代初等道徳教科書中的明清聖諭――“教育令”、“教育勅語”与明清聖諭相関書籍」(〔中国・山東〕第一届全国世界史中青年学者論壇)、「近世日本における中国伝来教訓歌謡――『六諭衍義大意』詩篇に対する解釈と活用を一例として」(〔中国・四川〕立命館大学文学研究科・四川大学外国語学院学術交流会)、書評1本「阿部泰記『宣講による民衆教化に関する研究』」(『日本思想史研究会会報』第33号)などがあることから、研究の進捗状況は、おおむね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は引き続き、以下の面から研究を進める予定である。 1.上記「2.書物・絵画の視点から明清聖諭関係書の再構築」及び「3.明清聖諭の歌謡と心学に関する研究」を深め、新出史料の翻刻及び解釈を完成し、学術雑誌で公表することを目指す。 2.上記「4.近代への転換期における近世庶民教化思想の再解釈について」の研究を引き続き、学会で頂いた指摘及び意見を参考に、近世藩校・郷校教育における郷約の活用を、鯖江藩校を中心に、「白鹿洞書院掲示」の普及及び『小学』の活用と合わせて考察する予定である。 3.琉球(沖縄)、朝鮮と近代日本本土における中国庶民教化思想に対する継承の異質性を究明する作業については、沖縄と韓国高麗大学での史料調査を通して、琉球と朝鮮における郷約・明清聖諭に関する問題を取り上げる。現段階では、琉球王国時代に関する史料収集は一部完成しており、2017年度に明治期沖縄における明清聖諭の継承について調査し、本土との比較研究を行う予定である。 さらに、今年度は史料収集・整理を行うことを加え、研究成果を日中両国での単著出版に向かって執筆の準備をする。
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