2016 Fiscal Year Annual Research Report
環境アセスメント手続における瑕疵と実体的な違法性の判断との関係
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16H07352
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
森田 崇雄 関西大学, 政策創造学部, 助教 (70781764)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 環境影響評価 / 手続的瑕疵 / 行政訴訟 / 環境法 / アメリカ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、環境アセスメント手続の瑕疵を争う訴訟における実体的な違法性の判断基準の在り方を検討するものである。その一環として、平成28年度においては、(1)アセス手続に関するわが国の議論状況の確認と、(2)アメリカ法を対象とした比較法研究を行った。 (1)については、当初検討対象としていた①「事業の許認可の取消訴訟」のほか、アメリカにおいて当該瑕疵を争う訴訟とより構造が近いと考えられる②「アセス実施義務の確認訴訟(公法上の当事者訴訟)」についても検討対象に含める必要性を認識し、わが国の裁判例や学説の議論状況について文献研究を実施した。その結果として、①についてはアセス手続の違法性を認定する裁判例は多くないが、その不備を指摘する裁判例によって、事実上、追加調査や追加の環境保全措置が実施される例も見受けられることを確認した。また②については、事業地の周辺住民に「意見陳述権」が認められないことを根拠に確認の利益の存在が否定されており、環境影響評価法の改正を含めた議論の必要性を認識した。 (2)については、当初の研究計画に沿って、アメリカにおいて実体的な違法性と結びつきうる「重大なアセスの瑕疵」とはいかなるものであるか、アメリカの判例法理について瑕疵の類型別の検討を行った。その結果として、①ミティゲーション措置については、対象事業と当該措置との十分な関連性の存在が要求され、当該措置の実施が確実でない場合や、対象事業がなくとも当該措置が実施されることが予定されている場合に、アセス手続の違法性を認める裁判例が存在することが明らかになった。また、②代替案の検討については、事業の目的と必要性に着目して審査されるため、それについての行政機関の主張いかんによって作成すべき代替案の数や内容が大きく左右されることになるが、裁判所がその主張の妥当性を否定する事例は非常に少ないことが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アメリカの判例法理に係る調査において、(1)環境アセスメント手続の実施主体が検討すべき代替案やミティゲーション措置の内容、数、優先順位の決定等については、環境アセスメント手続について定める国家環境政策法(NEPA)およびその実施規則(CEQ規則)に概括的な規定が置かれているものの、具体的には各行政機関の運用規則の規定ぶりに左右されることも多く、その点も踏まえた検討が必要になることが明らかになったこと、(2)NEPAに関する連邦最高裁の判決はそれほど多くなく、下級審判決の分析が必須であるところ、各連邦控訴裁判所において異なる違法性の判断基準が用いられていることが判明し、当該判断基準の違いに応じた分析が必要になったことから、進捗状況に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度も、引き続き、アメリカの判例法理に係る調査を実施することを予定している。まず平成28年度に課題として残った、各行政機関の運用規則や各連邦控訴裁判所における違法性の判断基準の違いを踏まえた分析を行い、前年度に行った研究を補完する。そして、アメリカ法の調査・分析が終了した時点で、わが国におけるアセス手続の瑕疵に関する違法性の判断基準の在り方についての検討に移行したい。その際、前年度に調査したアセス手続に関するわが国の議論状況を踏まえて、許認可の取消訴訟に限らず、アセス手続の再実施を要求する手段として用いられている公法上の当事者訴訟も含めて、アメリカの制度設計や訴訟構造との違いに留意しつつ、わが国における違法性判断基準の在り方について検討を行う予定である。
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