2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H07358
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Research Institution | Osaka University of Economics and Law |
Principal Investigator |
渡邉 浩一 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (30783922)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 哲学教育 / リベラルアーツ / 一般教育 / 教養教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
リベラルアーツとしての哲学について、(1)文献に即してカリキュラムの歴史的変遷を明らかにするとともに、(2)国内外の教育機関における実践の調査を行うことが本研究の目的である。 平成28(2016)年度は、(1)については、日本国内でこれまでに発表された哲学教育に関する文献の包括的調査を行った。具体的には、期間内に収集・閲読しえた書籍・学位論文7件、雑誌特集12件、論文・記事・ノート136件を「書誌」としてまとめ、それらの全般的傾向について「1.原理:哲学教育とは何か」「2.方法:どのような工夫がなされているか」「3.対象:誰を相手に行うのか」「4。比較:諸外国ではどうなっているか」「5.課題:何が求められているか」という観点からそれぞれ分析を進めた。その成果は、まず、2017年2月22日開催の第二回哲学教育研究会において、「哲学教育について何が語られてきたか」という題で発表した。また、その内容を敷衍して研究ノートとしてまとめ、書誌と併せて所属機関の紀要(『大阪経済法科大学論集』112号・2017年6月発行予定)に投稿した。これにより、国内の哲学研究に関する先行研究を総攬するための第一歩を踏み出すとともに、従来哲学教育に関して何が論じられてきたか(また何が論じられてきていないか)について一定の展望を示すことができた。 (2)については、(a)リベラルアーツ教育を標榜している国内の大学の哲学の授業を参観するとともに、(b)国内の私立大学の哲学科のカリキュラムについて聴き取り調査を行った。(a)は、これまでもっぱら授業担当者当人によって語られてきた授業実践を第三者の観点から観察・報告すること、(b)は、従来ほとんど主題化されてこなかった哲学科のカリキュラムを議論の俎上に載せることをそれぞれ狙いとするもので、これを足がかりに次年度さらに調査を進めてゆく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記(1)(2)の本研究の目的に関して、当初計画では、(1)については古典的リベラルアーツの「文法」に定位して、いわゆる自由七科のなかでのカリキュラム上の位置づけ・内容・教授法を解明すること、また(2)についてはとくにアメリカのグレートブックス・カリキュラムについて現地調査を行うことを予定していた。 しかし、(1)については、研究の核となるテクストの入手・精読が難しい状況であったため、ただちに古典期のカリキュラムに向かうのではなく、むしろ西洋の学術を移入して後の日本の哲学教育カリキュラムの調査から着手することとした。また(2)についても、海外調査のための日程調整が困難であったことから、国内での哲学教育の実践状況調査に焦点を絞ってこれを行った。 以上により、《リベラルアーツとしての哲学》という研究目的に関して、日本の「哲学(教育)」の現状における問題点を文献ベースで明らかにすることはできた(具体的には「9.研究実績の概要」に記載のとおりである)。しかし、それに応えるひとつの方策たるべき「リベラルアーツ」については、その解明を先送りすることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
既述のように、リベラルアーツとしての哲学について、(1)文献に即してカリキュラムの歴史的変遷を明らかにするとともに、(2)国内外の教育機関における実践の調査を行うことが本研究の目的である。 (1)については、平成28(2016)年度に行った調査研究の結果、日本の哲学教育においてこれまで「カリキュラム」という観点からの議論が十分なされてきていないことが改めて確認された。そこで、できるだけ広い歴史的展望のもとで哲学のカリキュラムについて考察するために、近世・近代における優れた先行事例とみられるジョゼフ・プリーストリの『市民的・活動的生活のためのリベラル・エデュケーション課程についての試論』(1765 年)の精読を行う。その際、「市民的・活動的生活」という観点に依拠するプリーストリの改革案が、個々のリベラルアーツ科目の教授・学習内容に関してどのような変化を招来しているのかに注目するとともに、併載されている「イングランド史」と「イングランドの国制と法」の講義の「シラバス(Syllabus)」についても検討を加え、その歴史的・批判的考察から今日の大学教育の改革動向への示唆を得ることに努めたい。 (2)については、今年度の調査を踏まえ、とくに「哲学科」のカリキュラムに踏み込んだ調査を試みるとともに、改めて「リベラルアーツ」という観点からも、先進的な取り組みを行っている国内の教育機関での調査を行ってゆきたい(加えて、日程等の調整がつくようであれば国外の期間での調査も行いたい)。 なお、上記(1)(2)の成果については、哲学ないし大学教育関連の学会・研究会で報告のうえ、当該学会誌等に論文等を投稿することとする。
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