2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16H07401
|
Research Institution | Yonago National College of Technology |
Principal Investigator |
辻本 桜介 (辻本桜介) 米子工業高等専門学校, 教養教育科, 助教 (90780990)
|
Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
Keywords | 「聞く」 / 「いらふ」 / 「こたふ」 / 「とて」 / 「にそへて」 / 引用 / 複合辞 / 「と」 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)本年度は、古代語における引用助詞の網羅的な用例収集と分析の結果、次の事実を明らかにし、論文ないし口頭発表の形で報告することができた。 (a)引用表現「~と聞く」は、現代語では、耳にした他者の発言を引く表現として用いられるが、古代語では、音声情報を聞いて把握した現状という、「聞く」主体の認識内容を引く表現として用いられていた。(雑誌論文、『國學院雜誌』118-2) (b)中古前期~中期において、「~といらふ」は働きかけを伴わない発言も含め、耳にした他者の発言に反応することを表す表現だった。これに対し類義表現の「~とこたふ」は質問・命令等の言語的な働きかけに対応することを表す表現だった。(口頭発表、第36回 山陰<知>の集積ネットワーク研究会) (c)中古語の引用助詞トテは、従来の研究で同義とされてきた「~と言ひて」「~と思ひて」などの表現と比較すると、前接する語句の種類や、後接する係助詞・副助詞のあり方等に関して複雑な相違が存在する。これらの現象は、トテの持つ、後続節事態に関わる事柄を提示する機能によると考えられる。(『米子工業高等専門学校研究報告』52) (2)以上の他、引用表現に由来する複合辞が存在することに示唆を受け、古代の複合辞の一つであるニソヘテという形の機能を考察した。「添ふ(下二段)」は本来、物理的な動作を表すところに意味の重点があるが、ニソヘテは情意に関わる表現としての使用が主であることが分かり、複合辞化に伴う意味の変容を観察することができた(口頭発表、第13回形式語研究会)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「とて」の機能を考察するにあたり、説明の難しい現象が予想以上に多く見出され、それらについて考察を行うのに時間がかかった。この点で研究の進展は遅れた。一方で、「~と聞く」「~とこたふ」「~といらふ」などの種々の引用表現の持つ意味について考察結果を発表でき、また、引用助詞「と」「など」についても用例の分析をかなり進めることができた。この点は、研究計画以上の進展だった。以上の状況から、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、次の4点を中心に分析と考察を進め、結論を得ることにより、古代語の引用助詞が持つ文法的なふるまいの全体を明らかにすることを目指す。 (1)現代語の引用構文「~と 述語」の分類方法等が古代語の引用構文にも適用しうるものかどうかを検証する。 (2)「~となり」のように引用句に断定の助動詞を伴う表現の持つ意味や統語的な構造を明らかにする。 (3)形容詞や形容動詞を述語とする引用表現の用いられ方を観察し記述する。 (4)「など」の引用助詞用法について、「と」と比較しながら分析を行う。
|