2016 Fiscal Year Annual Research Report
Japanese POW in the USSR after WWII 1945-1956.
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16H07407
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
小林 昭菜 国文学研究資料館, 研究部, プロジェクト研究員 (20784169)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア公文書館一次史料 / 日本人捕虜の高死亡率の原因 / ハバロフスク地方文書館史料 |
Outline of Annual Research Achievements |
●平成28年度は、ロシア語一次史料を用いてソ連政府の捕虜政策の決定メカニズムの解明を中心に分析研究を行った。分析内容は、ソ連中央政府・外国人捕虜・抑留者管理総局の政策決定過程の分析。中央の指令と地方の実態の比較を試みた。その成果の一部は共著の「ソ連抑留1年目の日本人捕虜の高死亡率の原因とソ連政府の対策」で発表することができた。専門家との意見交換も積極的に行うことができた。特にシンポジウム、国際会議における本研究テーマに関連する研究者の通訳翻訳業務のおかげで、日本人捕虜の問題をロシア側、イギリス側、日本側の視点を交え、議論することができた。今後は中央政府の指令・政策と実態との検証。抑留回想記、証言との比較、引き揚げ関連史料の精査をさらに進めて本研究を完成させる予定である。 ●海外での一次史料収集の成果:ロシア国立軍事文書館(1950年以降の長期抑留者に関する史料の収集)、ハバロフスク地方文書館(抑留初期の同地方政府の報告書類の収集)、ロシア国立歴史図書館(最近の関連する研究論文の収集)。 ●平成28年度の研究実績は、上記公文書館での史料収集や専門家との意見交換に基づく共著の出版、シンポジウム、国際会議での積極的発言や貢献に集約される。 ●出版物:小林昭菜「米ソ冷戦と抑留問題―ソ連による捕虜の「ソビエト化」と米占領軍の「防衛網」―」下斗米伸夫編『ロシアの歴史を知るための50章』明石書店、第25章p190-195、2016年11月、小林昭菜「ソ連抑留1年目の日本人捕虜の高死亡率の原因とソ連政府の対策」ボルジギン・フスレ『日本人のモンゴル抑留とその背景』第9章p147-170、エレーナ・カタソノワ「スターリンはなぜポツダム宣言第9項を破ったのか」第2章p25-35、翻訳小林昭菜。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、ハバロフスク地方文書館で史料を収集できたことが、非常に大きな成果であったと言える。ロシア語の一次史料は、すでにモスクワで過去に収集してきた経験があることから、日本人捕虜抑留当時の中央政府の状況については、おおよその概要は把握しつつあったが、地方政府がそれをどう受け止め、実施、展開したのかについては、先行研究でも憶測の域を出ず、考察が十分なされていなかった。しかしながら、昨年度の調査では、最も多くの日本人捕虜を受け入れたハバロフスク地方が、捕虜受け入れの初期の段階から既に収容人数オーバーであること、受け入れ態勢が整備できていないことを中央政府宛に訴えていることが一次史料から明らかとなった。この点は「シベリア抑留史」における新たな視点である。 また、昨年度はロシア、イギリスの研究者を招待し、第二次世界大戦史に関する国際会議を東京で開いた。戦後のソ連における日本人捕虜、独ソ戦でソ連軍に捕らえられたドイツ人捕虜、ソ連の収容所システムに関する最新の研究成果を報告し合い、本研究の目的である海外への発信、グローバルな視点での「シベリア抑留」研究の進展に大きく貢献できたと言える。 問題点を挙げるならば、費用の制限により海外での調査研究は短期間にならざるを得ないことであった。閉鎖的かつ閲覧に関して独自の習慣を持つロシアの公文書館では、短期間の滞在は作業実施に困難さが伴い、本来目的としていた史料まで閲覧できない、複写の申請を断られるなど、作業が途中のまま帰国しなければならない状況があったのは残念であった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究は、一次史料をもとに冷戦期のパワーオブポリティクスの視座からより広く「シベリア抑留」を捉えることを目指す。昨年度史料収集に努めた公文書館(ロシア軍事文書館、ハバロフスク地方文書館)で引き続き作業を継続、さらにロシア国立文書館、外交文書館へのアクセスも試み、中央と地方の両方の視点から外国人捕虜政策とその実態を解明、それが当時の国際関係とどのようにリンクし、変容していたのか、明らかにしていく。これと同時に、米国の一次史料の分析と読解も並行して行う。研究成果は、国内、海外の学会での発表や、論文、共著等での発表を行い、日・露・米側史料に基づくソ連における日本人捕虜研究を完成させる。
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Research Products
(6 results)