2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H07426
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
近添 淳一 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 准教授 (40456108)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 機能的MRI / 記憶 / 脳内表象 / 表象類似度解析 / 超高磁場MRI |
Outline of Annual Research Achievements |
人間は感覚器を通じて得た外界の情報を、脳内で再構築して、表現(表象)する。この過程で、情報は感覚器が伝える物理的・化学的情報から、カテゴリーや価値のような抽象的情報に変換され、意思決定や判断に用いられる。先行研究により、視覚刺激の情報は少なくとも三つの次元(刺激の物理的特徴、カテゴリー、主観的価値)で表象されていることが明らかにされているが、これらの表象間での相互作用や、これらの情報が認知過程においてどのように用いられているかは明らかにされていない。本研究では、情報の抽象化を伴う主要な認知過程の一つである記憶に焦点を絞り、記憶記銘・想起における三つの次元の脳内表象の相互作用およびこれらの文脈依存性の変化を調べることにより、多次元的な脳内表象の機能を明らかにする。本年度は14人の被験者を対象に、機能的MRI実験を行った。被験者は7テスラ超高磁場MRIスキャナ内で128枚の視覚刺激を提示され、それぞれに対して生物性(生物/非生物)および主観的価値(快/不快)の点数化を行った。さらに30分後、機能的MRIを用いて記憶想起に関連する脳活動の計測を行った。本研究では、記憶記銘時と想起時の脳内表象の対応と記憶課題成績の関係に着目し、解析を行った。その結果、記憶想起に成功した刺激においては、視覚野、側頭葉、前頭眼窩皮質を含む広範な領域で、記憶記銘時と想起時の脳内表象がより高い類似を示すのに対し、記憶想起に失敗した刺激においては、脳内表象が異なるという結果がえられた。この結果は、脳内表象の類似度と記憶の関連を示す証拠となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は14人の被験者を対象に、機能的MRI実験を行い、脳内表象の類似度と記憶の関連を示す結果をえた。MRIスキャナ内で行われた記憶記銘実験においては、被験者は生物性または価値のいずれかに対して点数を回答し、実験終了後にもう一方の点数を回答した。これにより、回答する点数(生物性/価値)によって情報の重要度の比重が変化し、それに伴い脳内表象の変化が観察されることを予想している。実験開始前はこの点数と脳活動パターンの類似度の関係を相互作用項を含んだ単純な回帰式によってモデル化することを計画していたが、多重共線性の問題があるため、単純な線形回帰は機能しないように思われた。そこで、機能的MRIデータに対してリッジ回帰によって正則化項を含んだモデル化を行うことにより、この問題を解決するという戦略を取ることにした。この手法は、異なる脳領域で表象される情報間相互作用を調べる上でも有効であると考えられる。現時点では、先行研究と同様に、視覚特徴が視覚野、カテゴリー情報が側頭葉、価値情報が前頭内腹側部で表象されるという結果がえられており、これらの領域を対象に、リッジ回帰を用いた解析を施行中である。また本研究においては、臨床利用される3テスラのMRIシステムと比べて静磁場が2倍以上強力な7テスラのMRIシステムが用いられている。これにより得られた高解像度画像における信号雑音比は1.5倍から2倍程度となることが知られているが、機能的MRI解析の結果においても、同様に統計値が1.5倍程度となることが示された。これにより、7テスラ超高磁場MRIシステムは、解剖学的構造を調べる上で有用であるのみでなく、機能的MRIを用いた心理実験においても同様に有用であることが示唆された。上記成果を得られたことで、計画はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
記憶の二重過程仮説においては、具体的な経験を伴う記憶想起であるrecollectionと、具体的な経験の記憶を伴わない記憶想起であるfamiliarityのプロセスが区別されている。この仮説からは、記憶想起時と記銘時の脳内表象の類似度は、recollection > familiarity > forgetの順に低下することが予想され、実際にforgetと前二者の比較では、有意な結果が得られている。しかしながら、recollectionとfamiliarityの比較では、recollectionの類似度が高い傾向にあるものの、recollection反応自体が稀な被験者が多かったためにばらつきが高く、統計的有意差が得られていない。そこで、さらに16人の被験者を対象に実験を行い検出力を上げ、この傾向が擬陽性でないことを確認したうえで、この結果を論文にまとめて投稿することを計画している。Familiarityと比較して、Recollectionがより多元的な表象に支えられるという結果は、心理学から提唱された記憶の二重過程仮説に神経基盤的バックボーンを与えるもので、学術的な貢献は大きい。また、7テスラMRIシステムによりえられた高解像度画像の特徴を利用して、外側膝状体と初期視覚野において視覚刺激関連脳活動パターンの相似を示す。外側膝状体は小さな領域であるが、この領域内のretinotopyが高解像度MRIによって解析可能であると考えられる。特に視野内のsaliency map(Itti and Koch 2001)との関連が示唆されているので(Chikazoe et al., 2014)、各視覚刺激のもつsaliency mapを視野mapの代替に用いて、網膜から外側膝状体を介して初期視覚野に向かう視覚情報の流れを、パス解析により示すことを試みる。
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