2016 Fiscal Year Annual Research Report
戦前期日本音療法実践の実像―松沢病院所蔵資料「病者慰安書類綴」を中心に
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16H07427
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
光平 有希 国際日本文化研究センター, 研究部, プロジェクト研究員 (20778675)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | 音楽療法 / 音楽史 / 医学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京都立松沢病院(前:巣鴨病院)は、現存する日本最古の精神病院であり、日本における精神科医療を牽引してきた。その松沢病院では、治療の一環として音楽を用いる「音楽療法」が、明治35(1902)年より継続的に施行され、それらの様子は病院側資料に細かく採録されている。これらの資料は現存するものの、これまでその全容が解明されてこなかった。それを受け、本研究は、松沢病院の音楽療法実践期間の中でも、「病者慰安書類綴」という音楽療法実践記録書に焦点を当て、(1)松沢病院における音楽療法が具体的にどのように行われたのかを明らかにすること、(2)戦前期の日本音楽療法実践の独自性を、松沢病院を主軸として解明することを目的とする。 本研究1年目の平成28年度は、まず2冊の「病者慰安書類綴」に記載されている内容の翻刻作業を行った。次いで、翻刻した「病者慰安書類綴」の内容に基づき、当時の音楽療法に関連する画像・文献史料を収集した。その上で、「病者慰安書類綴」の第1分冊に記載されている音楽療法実践内容を、「日時」「場所」「人数」「患者の性別」「演奏曲目」「演奏時間」にそれぞれ分類したほか、各会の状況を窺い知ることのできるその他の資料があったものに関しては「実践時の様子」「実践後の様子」の内容も附し、音楽療法実践に関するデータベースを構築した。また、平成28年度は、上記の作業を通じて研究基盤の構築を図ると同時に、翻刻内容に関しては対象患者及び関係者の名前等の個人情報を完全に伏せた形で、特徴ある音楽療法実践内容を抜粋し、分析を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在に至る、本研究に関わる史料収集及びデータベース構築の段階では、おおむね当初の計画通り遂行することができている。具体的には、研究開始から10月までの期間を割き、2冊から成る「病者慰安書類綴」の記載内容を翻刻した。続く11月と12月には、それまでに翻刻した「病者慰安書類綴」の内容に基づき、当時の松沢病院における音楽療法に関連する画像及び文献史料を収集した。その上で、翌年の1月と2月で「病者慰安書類綴」の第1分冊に記載されている音楽療法実践内容を、「日時」「場所」「人数」「患者の性別」「演奏曲目」「演奏時間」にそれぞれ分類してデータ入力し、各会の状況を窺い知ることのできるその他の資料があったものに関しては「実践時の様子」「実践後の様子」の内容も附し、データベースを構築した。さらに3月には、対象患者及び関係者の名前等の個人情報を完全に伏せた形で、特徴ある音楽療法実践内容を抜粋し、分析を試みた。 なお、本研究の遂行に関し、当初はデータベース構築作業に研究協力者1名の補助を予定していたが、申請者自身による作業が予定以上に進んだため、申請者のみでの作業を行った。したがって、人件費として計上していた補助金は、必要図書の購入費に変更した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成29年度は、まず「病者慰安書類綴」第2分冊の内容を、第1分冊の項目と同様に分類し、「病者慰安書類綴」全体のデータベースを完成させる。その後、完成したデータベースを基に、演奏曲目の特徴や変遷過程、音楽療法による効果や性別分類の動向等、多角面からの分析を試みることにより、松沢病院における音楽療法の特徴を考察する。さらに、同時代のドイツやイギリスといった西洋の音楽療法実践及び理論と松沢病院における音楽療法実践の内容を比較検討することによって、戦前期に松沢病院が行っていた音楽療法の独自性を浮き彫りにする。 平成29年度は上記の作業を中心に考察を深め、申請者が以前から継続して研究を行ってきた明治期における松沢病院(前:巣鴨病院)での音楽療法実践も含め、明治期から昭和期にいたる松沢病院の音楽療法実践に関する横断的な考察結果を、関連学会で発表する。さらに、分析結果をまとめ、関連学会の学会誌に論文を投稿する予定である。
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