2016 Fiscal Year Annual Research Report
スピン流体発電現象における渦度変換理論の実験的検証
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16H07437
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
高橋 遼 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (30782023)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | スピン流 / 流体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、速度分布を持って並進する流体の運動を利用し、流体運動が有する局所的な回転角運動量から電子スピン角運動量のながれ、電子スピン流を生成する現象(スピン流体発電現象)において、スピン-軌道相互作用に対する本現象の依存性を実験的に解明していく。スピン角運動量のながれでは、電子スピンと電子運動量をつなぐスピン-軌道相互作用が重要な役割を果たすため、スピン-軌道相互作用の異なる物質間で比較実験を行うことで、現段階におけるスピン流体発電現象を説明する渦度変換理論の妥当性を明らかにする。申請者らが最近実験的に発見したスピン流体発電現象を説明する渦度変換理論においては、スピン拡散長とスピンホール角を介してその信号強度はスピン-軌道相互作用の大きさに反比例的に依存することが予言されている。本申請研究では、スピン-軌道相互作用が弱い単一元素からなる低比重の液体金属Gaのスピン流体発電信号を系統・定量的に測定し、高比重の液体金属Hgの信号強度・現象論パラメータの結果との比較を通して目的を達成する。 当該年度は、大気雰囲気下では容易に酸化されて流体特性が変化する液体Gaを用いての高精度なスピン流体発電信号の測定を実現するため、申請者が構築していた煩雑な操作を伴う手動による測定システムの自動化を実現し、全測定部を不活性なArガス置換型のグローブボックスに格納した実験系を再構築した。さらに、統計的な実験精度を高めるため、長時間の積算測定が可能となる流量の少ない領域で実験可能となるシステムの構築に成功した。これにより、まず室温で測定可能なHgにおいて信号測定を実施し、渦度変換理論に整合する測定結果を得た。当該年度のシステム再構築およびHgでの信号測定は、本研究の目的達成にあたりGaを用いた測定・現象論パラメータの比較検証を可能とするという点で重要な成果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピン流体発電現象のスピン-軌道相互作用に関する渦度変換理論の妥当性を明らかにするという目的達成に対し、現在までに連続積算測定を可能とする自動測定システムが構築され、流量の少ない領域においてもスピン流体発電現象の測定が可能であることがHgを用いて確認されている。システムの再構築、改良が完了したため、Gaにおけるスピン流体発電測定を実施し、本年度得たHgの測定結果と比較することで目的を達成していく。 スピン流体発電測定システムは、[1]液体吐出部、[2]流路部、[3]平均流速測定部、[4]起電力測定部から構成される。[1]においてはデジタル制御可能な精密圧力制御器(GE社製)を導入し、印加圧力を細かくプログラム制御可能にした。[2]においては当初計画であった流出口への電磁弁の導入では、閉時に流体のながれを止めきれず、一定のバックグラウンドが測定信号に乗ることが判明したため電磁弁は使用せず圧力制御器でのベントを測定プロセスに組み込むことで、流体のながれに鋭敏に応答する信号を得た。[3]においては、デジタル出力が可能な電子天秤(エーアンドデイ社製)を導入することで、吐出液体質量を精密に自動測定し平均流速を算出するシステムを構築した。流量の少ない領域においても積算測定により再現性高く流速が算出可能となった。以上の各部を[4]起電力測定部の測定プログラムと連動させ制御することで、駆動流速が自動制御されたシステムにおいてスピン流体発電測定を高い系統性・定量性でもって実施可能にした。また、測定信号の定量評価には液体粘性を正確に知る必要があるため、液体金属がもつ低い粘性まで測定可能な振動式インライン粘度計(セコニック社製)を導入し、冶具の特注により少量測定を可能とした。以上の実現により、室温においてHgを用いた少流量域での信号測定が実施でき、理論と整合する結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
室温より高い融点(29.8度)を有するGaでのスピン流体発電現象測定を実現し、得られた実験結果をHgによる実験結果と比較する。スピン-軌道相互作用の異なる単一元素からなる液体金属間でスピン流体発電現象を比較することで目的を達成する。本年度成果により、本現象の測定システムは不活性なArガス下において自動的に連動制御されるようになった。また少流量域の流体運動を用いるシステム構築により長時間の積算測定が実現され、測定を高い系統性・定量性でもって実施可能となった。次年度研究ではまず、温調された小型恒温室を導入し、自動測定システムをその内部に設置することで、室温より高い温度雰囲気中での測定を実施可能とする。さらに液体吐出のためのガス配管の一部を銅管にすることで、温調されたArによる圧力印加を可能とする。少流量域においては、信号強度の管径に対する依存性を詳細に検討する必要があることが本年度研究により示唆されたため、管径の異なる溶融シリカキャピラリーを複数種特注し測定を行う。流速・管径・管長依存性の測定を通して液体Gaでのスピン流体発電現象における流体運動から信号への変換に関するパラメータ抽出を行う。理論研究者との連携を密にすることで渦度変換理論の検証・再検討と数値計算を並行して実施し、理論面からのフィードバックをかけることで、検証に必要な依存性測定の選定、より最適な流路系の構築に役立てる。申請者らが提唱する現段階の渦度変換理論によれば、本現象は粗くはスピン-軌道相互作用の大きさに反比例する。HgとGaを使用した比較評価によりこれを検証し、本理論の妥当性を明らかにする。以上により得られた研究成果を取りまとめ学会・論文発表を行っていく。
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[Presentation] Spin-hydrodynamic Conversion Effect2016
Author(s)
TAKAHASHI Ryo, HARII Kazuya, MATSUO Mamoru, MAEKAWA Sadamichi, SAITOH Eiji
Organizer
International Workshop on Nano Spin Conversion Science & Quantum Spin Dynamics
Place of Presentation
東京
Year and Date
2016-10-12 – 2016-10-15
Int'l Joint Research
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