2016 Fiscal Year Annual Research Report
海馬における新規自閉症感受性遺伝子Auts2の機能解析
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16H07466
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
冨士 早紀 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 病態生化学研究部, 流動研究員 (70779454)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | Auts2 / 海馬歯状回 / 細胞分化 / 神経新生 |
Outline of Annual Research Achievements |
海馬及び海馬歯状回は大脳辺縁系の一部であり、学習記憶に重要な脳領域である。近年この海馬や成熟期の神経新生が特徴的である歯状回の形成不全及び神経新生障害と、記憶障害やうつ、その他多くの精神疾患との関連性が示唆されているが、その制御機構に関しては不明な点が多い。 自閉症感受性遺伝子AUTS2は自閉症や知的障害など広く精神疾患との関連性が示された分子であり、海馬領域で強い発現が見られる。しかし海馬でのAUTS2機能については不明である。申請者はこれまでにAuts2cKOマウス生後脳において、歯状回の顕著な縮小を見出した。本研究はこのAuts2cKOマウスを用いた個体レベルでの解析を中心に海馬及び歯状回の発生や成熟期の神経新生に関わるAUTS2の生理機能を明らかにし、学習記憶などの高次機能形成の分子基盤及び精神疾患病態への理解を深めることを目的としている。 本年度はまず、まだ明らかになっていないマウス胎生期の海馬領域におけるAUTS2の詳細な発現分布について野生型マウスを用いて神経細胞特異的なマーカー抗体とAUTS2との多重組織免疫染色を行い解析した。その結果、AUTS2は海馬領域において、時期特異的な発現ではなく主に分裂後の顆粒細胞特異的な発現パターンを示すことがわかった。 次に、Auts2cKOマウス脳を用いて、Auts2遺伝子欠損による海馬歯状回縮小の原因を解析した。最初、過剰な細胞死による分裂後神経細胞の減少や細胞周期の変化による可能性を予測し解析を行なったが、それらには顕著な異常は見られなかった。そこで、Auts2cKOマウス脳においても野生型マウスの解析と同様に各種神経細胞特異的なマーカー抗体を用いて免疫染色を行い染色パターンを比較検討した。その結果、Auts2が発現する分裂後細胞のみならず、それより未分化な状態である神経幹細胞も減少していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題について本年度は、当初の研究計画にある「発生期海馬領域での神経細胞産生能に与える影響についての解析」を達成した。 まず、野生型マウス胎児を用いて各種神経細胞特異的なマーカー抗体とAUTS2との多重組織免疫染色を行なって解析し、海馬歯状回発生期においてAUTS2が発現する神経細胞を同定することができた。これまでAUTS2が海馬領域に発現していることは知られていたが、どのような状態の神経細胞に発現しているか詳細な解析がなされたのは今回が初めてである。次に、Auts2遺伝子欠損による海馬歯状回の縮小の原因についても複数の可能性について解析を行い、要因を特定した。先に同定したAuts2を発現している分裂後神経細胞の減少については予測されたが、Auts2が発現していないより未分化な状態の神経細胞についても減少が確認されたことは予想外であった。この現象も、本研究で初めて明らかとなったことである。 当初の研究計画で予定していた「成熟期海馬歯状回での成体ニューロン新生に与える影響についての解析」は現在、解析のための新たなcKOマウスを掛け合わせによって作成中であり、近いうちに解析を開始する予定である。 また、子宮内電気穿孔法を用いたAUTS2の分子機能の解析については、技術はすでに習得済みであったので、現在遺伝子導入時期の条件検討を行なっている。 さらに、「AUTS2結合因子群・下流遺伝子群の解析」については、すでに得られているAUTS2結合候補分子と、データベースとして公開されているAuts2のChIP-sequenceデータを基に、定量PCR法などを用いた解析をすでに開始している。 これらのことから本研究課題は概ね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、海馬及び歯状回の発生制御や成熟期の神経新生に関わるAUTS2の生理機能を明らかにし、学習記憶などの高次脳機能形成の分子基盤及び記憶障害、うつ、その他その他多くの精神疾患病態への理解を深めることである。 本年度は、発生期海馬歯状回におけるAUTS2の分裂後神経細胞特異的な発現パターンを明らかにした。また、Auts2遺伝子欠損による歯状回縮小が、分裂後神経細胞数の減少のみならず、未分化な神経幹細胞の減少にも起因するということを明らかにした。 今後は、このAuts2遺伝子欠損による分化状態に拠らない神経細胞数の減少の要因を解析する予定である。そのために、子宮内電気穿孔法を用いる。野生型マウス胎児の海馬領域にAuts2のshRNA発現ベクターを遺伝子導入してノックダウンを行なったり、Auts2発現ベクター(全長formや各種Auts2 isoformを含む)やAUTS2変異タンパク発現ベクターを組み合わせて導入し、Auts2cKOマウスで見られた表現型の回復に必要なAUTS2アイソフォームやAUTS2タンパクない機能ドメインの同定を行う。 さらに、AUTS2が関わる海馬神経細胞の産生や増殖、分化制御の遺伝子転写制御及びタンパクシグナル伝達型を分子レベルで明らかにするため、AUTS2結合タンパク質及び下流遺伝子群の同定を試みる。前者については、Affinity chromatographyと質量分析(LC/MS/MS)を組み合わせた網羅的プロテオミクス解析によって、すでに数百種類のAUTS2結合候補分子群のデータを得ている。後者については、cDNAマイクロアレイやChIP-sequence解析などの網羅的スクリーニングを行うと同時に、公共データベースを利用したin silico解析や組織免疫染色、定量PCR法などによって絞り込み同定を試みる予定である。
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