2016 Fiscal Year Annual Research Report
深海の巻貝スケーリーフットはどのように鱗の硫化鉄層を形成するか?
Project/Area Number |
16H07490
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
岡田 賢 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 研究員 (90780916)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ナノ材料 / 結晶成長 / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,深海の温泉である熱水噴出孔周辺に生息する巻貝であるスケーリーフットが体表の鱗に含有している硫化鉄ナノ粒子の起源を明らかにし,そのメカニズムを応用し地上でナノ粒子を生産するための技術の端緒を得ることである.まず硫化鉄ナノ粒子の起源を明らかにするため,鉄濃度が約60倍異なる環境で生育したスケーリーフット二種について,鱗の表面および内部の構造・組成を走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)でそれぞれ比較した.SEM観察および蛍光X線元素分析により,硫化鉄は熱水の鉄濃度が薄い場合には観測されず,硫酸バリウムなど他の熱水成分が表面に析出していることが明らかとなった.また,熱水成分を含む鉱物種は鱗表面数十ミクロンの範囲にのみ存在することを明らかにした.また,TEMによる断面構造解析では,50-100nm程度のロッド状硫化鉄ナノ結晶が存在し,これが数個から数十個集合した球状のサブミクロン構造を形成することが明らかとなった.加えて,球状サブミクロン構造と同程度の大きさを持ち,硫黄を豊富に含むが鉄を含まないドメインが共存することも明らかになった.これらサブミクロン構造は鱗表面付近では見られないことから,ナノ粒子の起源は堆積だけでは説明できず,スケーリーフットが自発的に硫化鉄ナノ粒子を形成していることが示唆された. この知見を踏まえ,チオール基あるいはジスルフィド基を豊富に含むポリマーを設計し,合成を行なっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
硫化鉄を含まないスケーリーフットなど生息域による構造変化解析などの進捗により,硫化鉄結晶化に至る可能性が当初の予定よりも絞られつつある.一方でポリマーの合成には困難を伴っている.これらを平均して上記評価とした.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,新たに導入された超高分解能走査電子顕微鏡システムを用い,より高速・広範囲に鱗内部の鉱物分布の元素マッピングを行ない,結晶化過程に関し定量的な議論を行なう.また,有機合成設備を増強し,ポリマー合成に注力する.豊富に硫黄を含むポリマーを得た後,硫化鉄ナノ粒子形成に着手する.
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