2016 Fiscal Year Annual Research Report
侵略アリで生じた侵略成功をもたらす形質進化の分子遺伝学的基盤の解明
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16J00011
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
宮川 美里 岐阜大学, 応用生物科学部, 特別研究員(PD) (00648082)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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Keywords | 性決定遺伝子 / 膜翅目昆虫 / dsx / 社会性昆虫 / アリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年日本からアメリカへの侵入が確認されたウメマツアリ Vollenhovia emeryiで発見された近親交配のコストをカバーする(1)性決定遺伝子座の複数化と(2)繁殖機構の至近的要因の解明を目的として研究を進めている。本年度は、本種の性決定カスケードの全貌を明らかにするため、三つの性決定関連因子の単離とUTR領域を含む遺伝子全長の取得を目標に研究を行ってきた。 まず、膜翅目昆虫のモデル生物であるミツバチの性決定遺伝子のホモログ遺伝子の単離と全長の取得を行った。実験ではRACE(Rapid Amplification of cDNA End)法を用いて、性決定カスケードの最下流に位置すると予想されるdsx遺伝子全長の取得を試みた。ドメイン解析の結果、本種にはdsxの特徴であるDMドメインをもつ遺伝子が4つ存在した。そこで、この4つのdsx候補遺伝子について他種を含めた系統解析やRT-PCRによる性特異的スプライシングの有無(未成熟mRNAが成熟mRNAになる際に、雌雄間で切り取られるエクソン領域に違いがあるか)を調べた結果、現在までに1つのdsx候補遺伝子を絞ることができた。さらに、dsxの上流にあると予想される性決定関連因子traやcsdのホモログについても同様に全長を取得した。dsx候補遺伝子については、雌雄特異的なエクソン領域を利用したqPCRを行い、雄では雄特異的、雌では雌特異的なスプライシングアイソフォームが高い発現を示すことから、注目している遺伝子がウメマツアリにおけるdsx遺伝子である可能性が極めて高いことが明らかになった。 今後はqPCRにより、複数化した最上流の性決定遺伝子の候補を絞り、さらにdsx、tra、csd遺伝子の機能解析(RNA干渉法)により、性決定関連遺伝子の上下関係を明らかにしてウメマツアリの性決定機構全貌の解明を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、近年日本からアメリカへの侵入が確認されたウメマツアリ Vollenhovia emeryiで発見された(1)性決定遺伝子座の複数化と(2)繁殖機構の至近的要因の解明を目的として研究を進めている。これら2つの形質はいずれも近親交配のコストをカバーし、低い導入圧でも侵入・定着を可能にする形質であることが示唆されている。本年度は特に性決定遺伝子座の複数化を解明するための研究で結果を得ている。 現在までに当該年度の目標であった「ウメマツアリにおいて性分化のスイッチと予想されるdsx遺伝子を単離する」ことができ、国際誌への投稿を目指した論文執筆に取りかかることができたことから、研究は期待通り進展したと考える。これらの結果はウメマツアリ特異的な性決定機構(性決定遺伝子座の複数化)の分子遺伝学的基礎を解明するにあたり基礎となる必須な情報であり、今後の研究の進展に重要である。本年度は性決定カスケードの全貌を明らかにするため、性決定関連因子の単離とUTR領域を含む遺伝子全長の取得を目標に研究を行ってきた。RACE法やqPCR法などの分子生物学的手法により、膜翅目昆虫のモデル生物であるミツバチの3つの性決定遺伝子のホモログ遺伝子の単離と全長の取得を行った。dsx遺伝子候補についてはqPCRを行い、雄特異的なスプライシングアイソフォームは雄で、雌特異的なスプライシングアイソフォームは雌でそれぞれ高い遺伝子発現が見られることを確認した。以上の結果から、ウメマツアリでは性決定カスケード最上流の遺伝子座が、他の膜翅目昆虫とは異なり複数化しているものの(Miyakawa and Mikheyev 2015)、最終的にはdsx遺伝子によって性分化が制御されている可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、dsx遺伝子の上流にあることが予想される他の性決定関連因子についてもRACE法によって全長を取得している。今後はウメマツアリ特異的に複数化した最上流の性決定遺伝子の候補を、qPCR法や発生初期胚のRNA-seqによって明らかにしていく予定である。さらに機能解析(RNA干渉法)により、性決定関連遺伝子の上下関係を明らかにしてウメマツアリの性決定機構全貌の解明を進めていく。 また、平成28年度から本種の繁殖機構の至近的要因を解明するための研究も進めている。ウメマツアリでは、雌が雄卵を生産する際に雌自身の核を継承しないことが遺伝子解析から明らかになっている。本種のようなシステムを有する侵略アリは他にも報告があるが、その至近的要因は分かっていない。平成28年度は卵の薄切標本を作成し、エオシン・ヘマトキシリン染色で細胞観察する新たな方法を試み、産卵直後の卵で核および紡錘糸を染色・観察することに成功した。発生初期卵の核の挙動を予想できる可能性が出てきたことから、今後は雄卵生産の際に雌由来のゲノムがどのように消失するのかを詳細に観察する。雄卵発生の際に核や紡錘糸において通常の卵発生とは異なる挙動が見られた場合は、変異をもたらす遺伝子の候補をゲノムデータベースから絞り、通常の繁殖様式を有する他の膜翅目昆虫や本種のゲノムデータと比較する予定である。
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Research Products
(1 results)