2018 Fiscal Year Annual Research Report
侵略アリで生じた侵略成功をもたらす形質進化の分子遺伝学的基盤の解明
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16J00011
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
宮川 美里 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 特別研究員(PD) (00648082)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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Keywords | 性決定機構 / 膜翅目昆虫 / 社会性昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではアリ類で進化した性決定機構の分子カスケードについて研究を進めている。ウメマツアリは性決定初期遺伝子座が二つ存在することが過去の連鎖解析から明らかになっていた。2018年度は、高分解能融解曲線(HRM)解析によって二つの性決定遺伝子座におけるアリルタイプを予想する手法を確立した。その結果、本種で予想されていた性決定機構(二つの性決定初期遺伝子座のうち、少なくとも一方がヘテロであれば雌、両方の遺伝子座がホモである場合のみ雄になる)がHRM解析のレベルにおいて正しいことが証明された。性決定遺伝子座の数や、表現型の雌雄と性決定遺伝子座におけるヘテロ・ホモ接合型を確認するために確立したHRM解析は、これまで利用していなかった個体群にも応用可能であることが明らかになった。実際に性決定遺伝子座の数が連鎖解析によって特定された個体群以外でも、二つの性決定遺伝子座を持つことが示された。これらの研究結果は間もなく論文執筆が可能である。また、2018年度は性決定機構を調べる上で重要な近親交配を安定して誘導する実験系も確立しJournal of Visualized Experiments(Miyakawa & Miyakawa 2018)に発表した。また、二つの遺伝子座において各アリルタイプを持つ個体ごとに性決定関連遺伝子の発現解析の行うことが可能になった。その結果二つの遺伝子座に由来する性決定初期シグナルは、性決定カスケードの中間に位置するfemに統合されることを強く示唆し、2017年度に予想した分子カスケードをさらに補強するものとなった。これらの研究結果は2018年12月に行われた日本動物学会や2019年3月に行われた日本応用動物昆虫学会でも発表した。今後は機能解析により性決定関連遺伝子の上下関係を特定し、論文にまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウメマツアリは連鎖解析の結果から二つの性決定遺伝子座のうち、少なくとも一方の遺伝子座がヘテロ型であれば雌、二つの遺伝子座がホモ型の場合のみ雄になることが予想されていた。しかし、性決定初期遺伝子が未だ特定されていないため、表現型の雌雄と性決定遺伝子座におけるヘテロ・ホモ接合型の関連性が示されていなかった。そこで、現在までにHigh Resolution melting(HRM)解析によって二つの性決定遺伝子座の遺伝子型を識別するための遺伝子マーカーを作成した。これらの領域は、雌では少なくともどちらか一方がヘテロ型、雄ではどちらもホモ型になる。HRM解析の結果、近親交配によって生じた雌の接合型の内訳は、第一遺伝子座/第二遺伝子座の接合型の比率が、ヘテロ/ヘテロ : ホモ/ヘテロ : ヘテロ/ホモ = 1:1:1と有意差がなかった(X2 = 1.5036, df = 2, p = 0.4715, n = 137)。さらに、近親交配で生じた雄は全て二つの遺伝子座をホモ型に持つことも示された。したがって二つ性決定遺伝子座のうち少なくとも一方がヘテロ型なら雌、両方がホモ型なら雄になることが初めてHRM解析のレベルで初めて確認された。さらに、各アリルタイプを持つ個体ごとに性決定関連遺伝子の発現解析の結果から、二つの遺伝子座に由来する初期シグナルが、本種の性決定カスケードの中間に位置するfemに統合される可能性が強く示唆された。 また、これから行う予定であるRNAiやゲノム編集による機能解析のためマイクロインジェクション技術も向上し現在までに3齢幼虫以上の発生ステージではインジェクションが可能で生存率も高いことを明らかにした。今後はHRMによるアリルタイプの特定と機能解析を合わせることで、本種における性決定カスケードの詳細に迫っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度も二つの遺伝子座によって性が決まるウメマツアリの性決定カスケードの詳細を調べるため、以下の実験を行う。ウメマツアリでは、一つ目の性決定遺伝子座由来のシグナルはミツバチ同様の性決定カスケードが保存されており、ヘテロ型遺伝子座に由来するcsdは下流のfemやdsxを雌型に、ホモ型遺伝子座に由来するcsdは下流のfemやdsxを雄型にスプライスすることが遺伝子発現解析から示されている。また、二つ目の性決定遺伝子座由来のシグナルはこのカスケードの中間であるfem(ショウジョウバエの性決定関連遺伝子transformer(tra)のホモログ)に統合されている可能性が示されている。本年度は、多くの昆虫で保存されているtraによるdsxのスプライシングの制御の有無を本種で明らかにするため機能解析を行う。現在までに3齢幼虫から蛹であればマイクロインジェクション後に高確率で生存可能であることを明らかにした。また、一週間以上単体での飼育を可能にする系も確立した。本年度は、より若齢個体におけるマイクロインジェクションの系を確立する。そして、femのノックダウンにより、dsxの発現変動や表現型の変化を確かめ、本種の性決定カスケードにおけるfemとdsxの上下関係を確定する。また、本種の特徴の一つである雌ゲノム消失を伴う雄卵生産を誘導するため、定期的に女王の幼若ホルモン(JH)濃度の測定や、JHシグナル関連遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって調べ、雄卵生産期特異的な体内ホルモン濃度の上昇や遺伝子発現が見られた場合は、女王へのホルモン類似体の投与や、遺伝子の過剰発現(またはノックダウン)により人工的な雄卵の誘導を試み、雄卵の発生機構を調べる。最終年度であるため、上記の研究結果について学会や論文で発表する。
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