2017 Fiscal Year Annual Research Report
提携関係からみた社会構造の安定性に関するゲーム理論的分析
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16J00035
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
阿部 貴晃 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / 安定性 / コア / 提携構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はゲーム理論とその経済学的応用に関する理論的研究である。本年度の成果は主に、三つの査読付き国際学術誌に掲載が決定した論文でまとめることができる。 論文1.企業などに代表される人々の集まり(提携)の安定性を記述する「コア」の概念を、整合性の観点から特徴付けることに成功した。ここでの整合性とは、大きな社会(例えば国)で実現する安定性が、その部分社会(例えば各地域)でも妥当するかどうかを検証する整合性である。当論文は、各部分社会の生産性や利得が互いに影響を与え合うモデルを採用しており、これは従来用いられてきたモデルよりも一般性の高いモデルである。 論文2.提携の安定性に関する理論的知見を、投票と投票集団の安定性に適用した分析を行った。例えば、政党とその安定性を、Shapley-Shubik投票力指数として知られる「政党のパワーの指標」を用いて分析した。短期的な安定性と長期的な安定性に一致が見られることを明らかにした。 論文3.課税とその再分配プロセスの規範的性質の研究にゲーム理論を応用した。具体的には、「個人のパフォーマンスあるいは生産性にのみに基づく再分配」と「それらから独立した均等分配(例えばベーシックインカム)」を二つの極端なケースとして、これらを適度に「混ぜる」ルールを提案し分析した。 上記の三つの研究はいずれも、社会を提携の集まりとしてみたときに、その提携の構造が安定であるために求められる条件を理論的な観点から明らかにした点に重要性がある。また、上記の研究のほかにも、安定性と分配の観点から複数の研究が進んでいる。そのうちのいくつかは、現在国際誌にて査読中であり、特に返事のあったものについてはレフェリーから好意的な評価を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、3本の論文(いずれも査読付国際誌)を出版できた。加えて、これらの研究に関する3つの受賞を受け取ることができた。これらは研究が順調に進んでおり、また、それが評価されたことの証と考えている。実際、さらにいくつかの研究が進展中であり、そのうちいくつかについては既に査読プロセスに入っており、好意的な評価を獲得している。 また、国内外での学会報告において、情報交換ができたことも重要であった。当研究分野は理論的に未解決の問題もいまだ多くあり、どの問題にどのようなアプローチが試みられているのかを知ること・知らせることが不可欠である。本年度に複数の国内国外の学会にて発表を行い、多くの情報を得たことも順調な進展の一助となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は理論的研究である。そのため、その結果は一般性をもっており(条件のあてはまる)様々な社会的側面へと適用できる。これまでは、一般性を重視した研究を行ってきたが、今後の方策として、経済学的な市場をターゲットに据えた理論展開を狙っている。市場は、当然、経済学における最重要項目の一つでありゲーム理論の観点からも様々な研究がなされている。しかし、提携や提携構造といった、市場の構成者らに焦点をあてた研究は多くない。上に述べたような、本研究がこれまでに蓄えた知見をもって、この課題に挑戦する事を計画している。
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