2017 Fiscal Year Annual Research Report
階層構造および教育制度の変化が世代間移動に与えた影響-インドネシアを事例に
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16J00036
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
島田 健太郎 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(PD) (90829178)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 自律的学校運営 / 中等教育 / 学力 / インドネシア / PISA |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究は、インドネシアの中等教育における自律的学校運営と学力の関連性について取り組んできた。教育セクターにおける地方分権化政策の鍵となる自律的学校運営制度の導入の実態及びその効果について調べることは、本研究課題の中で重要な意味を持つ。同制度が貧困層出身の生徒達の学力向上に貢献するならば、インドネシア社会における世代間社会移動の構造に何らかの影響を与えると考えられるからである。
当該研究で主に使用したデータはOECDによって実施されている生徒の学習到達度調査(PISA)である。PISAは生徒の出身階層に関連する家庭環境要因、そして通学する学校設備、教員の情報に関する個票データを収集しており、多変量解析に適している。同調査は3年毎に実施され、2000年から2015年の間に6シリーズのデータが存在する。当該研究は、この複数年に渡るデータを使用して自律的学校運営制度の導入が学力にどのような影響を与えているかを調べた。当該研究での分析の結果、インドネシアにおける自律的学校運営と学力との間には緩やかな負の相関があることが確認された。この結果は、学校の自律性は学力向上に効果が無い可能性を示唆している。なぜこのような結果が導き出されたのかについては、慎重な解釈が必要であるものの、学校運営体制の格差が学力にも反映されている可能性がある。
自律的学校運営導入の背景には学校に様々な権限移譲を行うことによってより良き統治(ガバナンス)が行われ、個別のニーズに対応したサービス提供の結果として学力向上に貢献するという論理が存在する。従って、この論理が通用しない理由をどう考察し、検証していくかという点が、今後の研究を発展させていく上で重要であると考えらえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の現地調査によって得られた知見に基づいて、研究の計画、方針について軌道修正し、その結果、研究成果が得られた点は評価できる。地方分権化政策前後の比較を目的とした独自の質問紙調査を行う前に、関連する文献のレビューや現時点で入手可能な大規模学力調査、家計調査などで可能な分析を進めた上で現地調査を設計する必要があった。当該年度に実施したPISAによる自律的学校運営の分析結果は、教育制度と世代間移動の関連性を検証を進めていく上での重要な示唆を提供してくれた。
昨年度(平成28年度)の研究はジャカルタとバンドンに赴き、インドネシアの基礎教育における学校運営の実態を見てきた際に、地方分権化と教育制度の関連性を調べるには分析の枠組みを再検討する必要性がある事を実感した。当初は分権化以前と以降における学校運営の実態を比較する計画を立てていたが、学校長や教育行政官へのインタビューを通じて、2000年頃から継続して現在の職に就いている方々がほとんど存在しないことが明らかになった。また、自律的学校運営を具体的にいつからどの程度実施してきたかという点についても、一度の短期間の渡航では、その実態の把握は困難であった。よって、自律的学校運営の効果について調べる前に、自律的学校運営の実態や関連政策のレビューやマクロレベルでの傾向分析を先に進める必要があると考えるに至った。
現地への渡航を来年度以降に見送った一方で、平成29年度の上半期は、インドネシアの基礎教育や自律的学校運営に関する先行研究レビュー、そしてPISA2000,2003,2006,2009,2012,2015を入手し、分析可能な状態にするようデータの結合・整理を中心に行った。下半期はデータ分析を中心に行い、研究成果を文書にまとめた。また、データ分析手法に関する研修を受講し、分析スキルの強化をした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。それぞれについて、研究成果を論文にまとめる。まず、自律的学校運営制度以外の他の教育政策についても考慮した政策分析(学力格差是正策を中心に)を行う。そのために、これまでに行ってきたPISAを用いた経年変化の分析を応用する。2000年から2015年の期間に実施された主な教育政策について文献調査から、その政策の実施状況、およびその影響について整理する。そうした政策からの影響を踏まえた計量分析モデルを構築し、学力格差に影響を与える要因について検証する。
次に、家計調査を用いた世代間移動分析・世代間持続性研究成果をまとめる。これらの分析の目的はインドネシア全体の格差の実態を把握することにある。理論的背景や分析手法に関する先行研究レビューはある程度進んでいるので、今後は家計調査の入手し、データの整理を進めて、分析が可能な状況にする。予備的調査結果を現地渡航前に得ておき、執筆と同時並行で以下の現地調査を進める。
最後に、インドネシアでの学校調査の実施する。バンドン、ジャカルタにおいて自律的学校運営制度、学力格差の実態について、学校長や教育行政官、運営委員会の責任者などから聞き取り調査を実施する。バンドンやジャカルタの事例によって、学校現場レベルから格差のメカニズムについて検証する。
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