2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J00178
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 仁彦 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 集団遺伝学 / 進化 / 組み換え / 遺伝子水平伝播 / 負性微分抵抗 / 運動論的拘束模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
集団遺伝学的なスケールにおいては、生物の進化は遺伝型の間の変化が生じる「変異」と個体間の競争による「淘汰」の二つのステップに基づいて行われる。この際、適応度地形が滑らかであれば進化速度は淘汰が強いほど速くなると考えられている。一方、新しい遺伝子は変異のみでなく組み換えによっても供給されうる。組み換えは有性生殖や遺伝子水平伝播などの過程において見られ、マラーラチェットやクローン干渉など、変異に駆動された進化における進化を遅くする要因を避けるのに有用であると考えられている。しかしながら、組み換え自体に駆動された進化の性質はあまり知られていない。我々は、集団内での組み換えと集団間の移住のみによって遺伝的多様性が供給される集団遺伝学的状況においては、淘汰が強くなると適応度地形が滑らかであるにもかかわらず進化速度が遅くなり得ることを数値計算・解析計算の両面から示した。この結果は各集団がそれぞれ独立のニッチに適応している状況、共通のニッチに適応している状況のいずれにおいても成り立つ。また、この現象は、外力に駆動される粒子系において外力を大きくした際に粒子カレントが小さくなる負性微分抵抗と呼ばれる現象とも似ており、これらの類似性についても考察を行った。特に本研究の模型は適応度地形の凹凸なしにダイナミクスの拘束によって進化を遅くするような模型となっており、ガラスにおける運動論的拘束模型との類似性も見られる。以上の結果は現在論文投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
集団遺伝学レベルにおいて進化を遅くする新しいメカニズムを提案したという点は今年度の大きな成果である。一方、このメカニズムを捉えられるような実験的設定の提案にまでは至らなかった。また、ガラス理論とのはっきりとした対応も現段階ではわかっていない。以上の点を踏まえておおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた進化を遅くする機構をガラス理論の文脈で明確に理解することが一つの課題である。また、本成果を実空間における細胞集団の増殖とカップルさせ実空間における増殖の凍結を見るのも一つの方向性である。この際、進化の系統樹の分布に注目することが重要であると期待される。さらに、今年度の模型で扱われたような階層的な系の進化を非平衡統計力学的な文脈に乗せることも課題と考えられる。
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Research Products
(8 results)