2017 Fiscal Year Annual Research Report
Irregular rupture evolution during the large/great earthquakes: resolved by high-frequency radiation sources and co-seismic slip distribution
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16J00298
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
奥脇 亮 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 巨大地震 / 震源過程 / 地震波形解析 / 高周波励起 / Hybrid Backprojection / 深さ依存性 / 破壊進展の加速・減速 / スラブ内地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は以下の3つの研究実績を得た。 (1) 高周波励起源の時空間分布をイメージングするハイブリッドバックプロジェクション (HBP) 法を拡張開発し,2008年中国・四川地震 (Mw 7.9) に適用した。解析の結果、断層幾何形状の不連続領域 (幾何バリア) において強い高周波の放射が観測された。破壊フロントが幾何バリアに侵入し破壊進展が妨げられたこと、同時に強い応力集中によって近接する破壊領域へと破壊フロントが進展・加速したことを反映しているものと考えられる。高周波放射強度と同時に推定される滑り角は、強い高周波の放射領域で0-180度の範囲でランダムに散乱した解が求まり、強い高周波放射に起因する応力擾乱を反映している可能性がある。
(2) 高周波励起源の推定に用いるバックプロジェクション (BP) 法およびHBP法の数学表現の精査、および数値実験を実施した結果、BP/HBPイメージは、高周波励起に寄与する断層上の滑り挙動から独立した、グリーン関数の振幅に対応した深さ依存性を有していることがわかった。そこで、BP/HBP法によって求まる高周波イメージから、高周波励起に寄与する滑り挙動を直接取り出す新しい定式化を考案し、数値実験ならびに実データへの適用によってその効果を実証した。
(3) 2017年メキシコ・チアパス地震 (Mw 8.1) を波形インバージョン法で解析し、スラブ最浅部における破壊核形成およびスラブ内浅部領域における破壊進展を明らかにした。スラブの急峻な沈み込み (ベンディング) によってスラブ上部に引張応力場が卓越し、正断層型地震が発生したと考えられる。破壊進展様式は、スラブ形状およびスラブ内の応力状態を反映してスラブ内浅部から深部へと進展し、沈み込むテフアンテペク破砕帯に破壊フロントが差し掛かると、破壊進展が急激に減速し停止する様子が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」すべてを、査読付き国際誌に投稿あるいは出版し、本研究課題の遂行に重要な下記の3つの知見を得たからである。 (1) 2008年四川地震の解析によって、断層システムの幾何形状が複雑な領域で発生する巨大地震の破壊進展様式は、断層形状が比較的単純な沈み込み帯で発生する巨大地震に比して、より複雑になり得ることを明らかにした.本研究課題で追究する巨大地震の不規則な発展プロセスを特徴づける重要な知見である。一方、本研究成果は、HBP法のせいぜい1-10 km程度の空間解像度の制約ゆえ、断層システムの幾何形状と高周波励起の関係性にまつわる議論は,決定論的な性質に留まっている。本研究実績は今後、より小さな空間スケールに存在するであろう断層表面の統計的ラフネスに起因する破壊伝播の揺らぎをイメージングし、観測の立場から知見を加える将来的な展望を与え、本研究課題をさらに昇華させる方向性を見出す契機となった。
(2) 新たなBP/HBP法の開発に関する研究成果は、従来不明瞭であった高周波イメージングの物理的な意味を明らかにし、とくにHBP法によって求まる高周波イメージから滑り速度あるいは滑り加速度を抽出することが可能となり、波形インバージョン法によって求まる滑り分布との直接的な比較および震源過程の包括的な議論が可能となった。また、従来の高周波イメージから帰納されてきた巨大地震の発生メカニズム・破壊進展プロセスの議論を再構築する一助となることから、当該コミュニティにとって大きなインパクトを与えることが期待される。
(3) 2017年チアパス地震に関する研究は、波形インバージョン法のみを用いた予察的な解析に留まっているものの、当初の研究計画では想定していなかった、スラブ内巨大地震に対してその解析の重要性を認識させられ、研究計画を拡張する一助となった重要な研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」 (2) の研究により、HBPイメージのもつ運動学的意味を、陽に指定することが理論的に可能となった。具体的には、速度の観測波形と変位のグリーン関数を用いることで、HBPイメージのシグナル強度の物理単位を加速度 (加速・減速) へ対応させることが可能である。破壊フロントの加速・減速現象は、巨大地震の破壊進展プロセスの複雑性、および高周波の放射に係る根本的な原因の一つであり、HBP法によってそのイメージングが可能となれば、本研究課題の遂行をさらに推し進めることに繋がる。また破壊フロントの加速・減速現象は、理論的な研究に比してその観測事例が乏しい事象であるため、巨大地震発展プロセスの不規則性に対して、新たな知見を与えることが期待される。既に予察的な解析を行い、その一部を研究集会で発表しているが、数値実験ならびに実データへの適用を通じた加速・減速イメージングの解像限界に関する研究・議論を、平成30年度に実施する。
2017年チアパス地震の解析を通して、当初の研究計画では想定していなかった、スラブ内巨大地震に対してその解析の重要性を認識させられたため、平成30年度は、スラブ内巨大地震も解析対象に拡げ、さらにHBP法を用いた統合的な震源過程解析を進める予定である。
前述の「研究実績の概要」(2) によって破壊進展の加速・減速イメージングの実現可能性が予期されたが、これは当該コミュニティでは未踏の課題であり、強いインパクトをもたらす可能性があるため、早期の実現が望まれる。従って、当初の研究計画では、既存のHBP法の枠組みを用いてイメージの解像度向上を目的とした固有値解析法の導入を目論んでいたが、平成30年度は、破壊進展の加速・減速イメージングの研究を優先させ、最終年度に実施予定であった「巨大地震の発展過程を概説」の完遂を目指す。
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