2016 Fiscal Year Annual Research Report
重い電子系化合物における4f電子混成効果の偏光制御角度分解光電子分光による解明
Project/Area Number |
16J00314
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中谷 泰博 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 希土類化合物 / 4f 電子 / 重い電子系化合物 / 混成 / 光電子分光 / X線吸収分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
4f 軌道が不完全殻の系の中に, f 電子間の強いクーロン反発 (電子相関) による特異な物性が発現する強相関希土類化合物が多く見られ, 永久磁石や蛍光体などの機能性材料として産業応用されている. このような機能の原理を理解し, 省希少金属問題を解決するための代替金属の提案を行うためにも, 希土類化合物の物性を解明することが求められる. その中で, 我々は 4f1 電子配置に近い Ce 化合物を対象として, 4f 電子と伝導電子の混成 (c-f 混成) 効果を実空間・運動量空間の両面から完全解明し, その電子状態を調べる研究を行っている. Ce 化合物に対し, 伝導電子の電子構造と, f 軌道の電荷分布を決定した. c-f 混成に寄与する伝導電子の対称性を理解するために, 円偏光依存角度分解光電子分光を行なった. また, f 軌道電荷分布を決定するために, Yb 化合物に用いられている内殻光電子線二色性の測定 [1] を適用した. Ce 4f 軌道の異方性を反映する Ce 3d スペクトルの光電子線二色性を測定し, イオンモデル計算 [2] と対応させることで, f 軌道電荷分布を決定することができた.
参考文献 [1] T. Mori et al., J. Phys. Soc. Jpn. 83, 123702 (2014). [2] A. Tanaka and T. Jo, J. Phys. Soc. Jpn. 63, 2788 (1994).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画は, 低温で超伝導を示し [3] 重い準粒子状態となる [4] CeNi2Ge2 に対して円偏光依存角度分解光電子分光を用いた伝導電子の対称性の理解であったが, これについては成功した. CeNi2Ge2 の伝導電子の情報は, f0 配置の参照物質 LaNi2Ge2 を測定することで得た. X 点で 1.2 eV を底とする真っ直ぐなバンドと, 0.3 eV を底とする放物線状のバンドを観測し、それらが異なる二色性を示していることを発見した. 2つのバンドが異なる対称性を持つことが分かり, CeNi2Ge2 における c-f 混成効果を考える際に, どちらかのバンドが f 軌道と混成する可能性があると考えられることが分かった. さらに, 内殻光電子線二色性の測定にも取り組み, CeNi2Ge2 の f 軌道電荷分布を結晶軸の a 軸方向に節を持つような形に決定することができた. この結果を, CeNi2Ge2 における c-f 混成効果と対応させることができれば, Ce 化合物の物性の解明, ひいては希土類機能性材料の原理の解明につながる可能性がある.
参考文献 [3] F. M. Grosche et al., J. Phys. Condens. Matter 12, L533 (2000). [4] F. Steglich et al., J. Phys. Condens. Matter 8, 9909 (1996).
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, これまでの結果で得られた結果を用いて比熱や磁化率などの物性値を計算し, 物性測定値を説明する物理描像を構築する予定である. 具体的には, これまで求めた CeNi2Ge2 の結晶場描像を用いて, 比熱や磁化率を計算し, すでに報告されている測定結果 [5,6] と対応させることで, 物性の背景にある物理を知ることができる. また, 理論研究者と共同で, 電荷分布を出発としてバンド計算のような計算を用いて電子状態を理論的に導出する研究にも取り組む. こうすることによって, 電荷分布・電子状態・物性がひとつの物理でつながることが期待できる. また, これまで行ってきた研究手法は CeNi2Ge2 に限らず, 他の Ce 化合物にも応用し, 電荷分布や電子状態と物性との対応を考察する. 現在, 反強磁性を示す CeCu2Ge2 や超伝導を示さずフェルミ液体的に振る舞う CeRu2Si2 などの測定を行っているところである. 同じ結晶構造にも関わらずこれらの化合物の物性が異なる要因は c-f 混成の違いが原因ではないかと考えられており, それぞれの電荷分布や電子状態を比較することで, c-f 混成の違いや物性の違いを議論できると考えられる. これにより, ひとつの物理描像から様々な物性の説明が可能になることが期待できる. こうすることで, Ce 化合物の物性の解明, ひいては希土類機能性材料の原理の解明につながり, 機能性材料の代替物質の提案に貢献できると考えている.
参考文献 [5] T. Fukuhara et al., J. Phys. Soc. 65, 1559 (1996). [6] T. Kuwai et al., J. Magn. Magn. Mater. 272, 68 (2004).
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